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アメリカ人の夫に、何度も改善を求められていること
子どもたちが寝静まった後、心おきなく映画やドラマを観るのがわたしたち夫婦のちょっとした楽しみです。
数日前の晩に、新しいドラマを観はじめました。
『プライム・ターゲット』です。
このドラマ、まだ2話しか観ていないので、物語の全体像はつかめていません。とにかく始まりがミステリアスです。
イラクで手つかずの古代遺跡が発見される。
ケンブリッジ大学で数学を専攻する天才青年が、たまたまその遺跡の写真を目にし、そこに隠されたある秘密に気づく。それを解き明かすための研究を始めようとしたところ、担当教授に強く反対される。そして、その一部始終を密かに監視している何者かの存在が浮かび上がる......。
遺跡に隠された秘密ってなに?
教授が天才青年の研究にあんなに反対するのはなぜ?
監視している人はだれ?なんのために?
とにかくわからないことだらけです。そして、頭の中にハテナが量産されたまま、第一話が終わりました。
まあ、これからおもしろくなっていくのでしょう。それを期待して、この日はそこまでにしました。テレビを消して寝る時間です。
わたしは、謎に包まれたままのストーリーを思い返しながらこう呟きました。
「いやぁ、なんのこっちゃわからんなあ」
ソファから立ち上がりながら、なんの気なしに発した言葉だったのですが、見ると、夫が不可解そうな顔でわたしを見つめています。
「ナンノコッチ......?」
その表情を見て、いまわたしが口にした日本語が外国人には難しすぎたことを悟りました。
夫はアメリカ人ですが、日本に2年ほど滞在したことがあり、日本語は中級程度話せます。
わたしが日々、容赦なくくだけた日本語を浴びせ続けている甲斐もあって、日本を離れて久しいいまも、特に聞き取り能力は一定のレベルを維持しています。
そんな夫にも、さすがにこれは難しかったか。
でも意味はわかったようです。「コッチャ」の正体が不明だったものの、「こと」の変形であることは見当がついたようです。
「きちんと言うと、『なんのことかわからないなあ』だね」
わたしは、あの一言がくだけた口語でありつつ、「わからない」を「わからん」と省略する故郷の方言も含まれていることを解説しました。
”It’s impressive you understand that. Your Japanese is really advanced!”
(これがわかるなんてすごいよ。君の日本語は上級レベルだね!)
階段を上がりながら、わたしは夫を振り返って絶賛しました。
日本人が日本人にしか使わないような、こんなくだけた一言までわかってくれることが、わたしにはありがたいのです。
英語の世界に根を下ろし、ネイティブも非ネイティブも関係なく、英語を話さないと生きていけない毎日。そんな中において、英語の鎧を脱ぎ捨てて、完全に力を抜いて日本語をこぼせる夫の存在は、まるで砂漠の中のオアシスのようです。
"You'd never find such a sentence in a textbook."
(こんなの、教科書にはゼッタイ載ってないもん)
感謝と賞賛の気持ちをこめて、わたしは力強く言いました。すると、夫は一言ぼそっとこう言いました。
"Maybe we should stick to textbook Japanese."
(教科書の日本語でいった方がいいんじゃないかな)
……。
わたしは、一瞬、答えに詰まりました。
そりゃそうだ、さっきのは夫といえども外国人相手に言うような日本語ではない。納得だ。
それに、これと同じような会話を少し前にしたぞ。あのときも、もっと教科書的なフォーマルな日本語をしゃべってくれと言われたな。
詰まりながらそんなことが頭を駆け巡りました。そして、ははは、と笑いました。笑ってごまかしました。
...…えーと、とりあえず、なんかごめん。
(おわり)
読んでくださってありがとうございます。
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