上京したてのわたしに上司が言った一言
大学を卒業して就職するタイミングで、わたしは大阪を離れ、東京へ出た。
新社会人。新しい職場。新しい部署。新しいボス、同僚たち。何もかもが初めて出会うものばかりの新しい生活が始まった。
東京に住むようになって、感じたことはいくつかある。
真っ先に思い浮かぶのは、男の人の話す言葉の語尾。「ね」をよく使うことに強い違和感があった。大阪から乗ってきた新幹線を下りて、山の手線に乗り換えたときに、もうそれを感じていた。
「それでね」「これ、おいしいよね」
なんだか、とっても優しい雰囲気がある。優しすぎるとすら感じる。これは慣れと感覚の問題なので、理屈ではない。(今はもう違和感はない)
大阪では、語尾の助詞の使い方が、男性と女性でもっとはっきりと分かれている。東京で「ね」を使う場面で、大阪の男性は「な」を使うことが多い。
「それでな」「これ、おいしいよな」
あと、話にオチがなくていいのは、いい意味で新鮮だった。他愛もない、きゅっとした締まりの全然ない話を気軽にしていいんだっていう。
わたしは、小学校の途中から大阪に引っ越し、両親も大阪人ではなかったので、根っからの大阪人とはいえない引け目があった。オチのない話をして、「いまのオチないやん」と誰かに教育的指導をされることもあった。大阪に住んでいるからって、みんながみんなお笑い芸人になれるわけでは当然ないんだけど。
それから、お蕎麦屋さんが多いこともわたしには新しい点だった。大阪では圧倒的にうどん屋さんの方が多かったから。年越しのときくらいしか食べなかった蕎麦だけど、東京に来たら、周りの人につられてランチなどでも食べるようになった。食べてみたら、蕎麦もなかなかいけることを知った。
そんな軽いカルチャーショックを受けながら過ごしていたある日。
職場で、直属の上司から、課長がどこに行ったのかを聞かれた。わたしは、課長の秘書でもなんでもなかったけれど、予定を確認して、
「〇〇へ外出してはります」
と答えた。すると、その人は、軽くふうっと息を吐いて、驚くべきことを言った。
「あのさあ、それ、大阪では敬語なのかもしれないけど、ここは東京だからね?」
「は?」と思ったけど、さすがに「は?」とは言わなかった。
なにそれ。わたしがアナウンサーとかならまだしも、上司への受け答えは、標準語で行わなければならないなんて誰が決めたルールなの?じゃあ、大阪の支店にいったら、全員大阪弁を習得して、大阪の言葉でしゃべるのが正解なの?
その後、なんて言い返したのかは覚えていない。
でも、当然だけど、大阪でもそうなように、東京にもいろんな人がいる。東京至上主義の人もいれば、地方の方言をこよなく愛す方言フェチみたいな人もいたし、大阪弁を習得したがる人もいた。
あれから、わたしは中国に駐在し、東京に戻った後にアメリカに移住した。いまからあの上司の一言を振り返ってみると、
「まあ、どっちにしても日本語やで」
という感想が浮かぶ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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