信じると信じないの狭間で、ときどき揺れる
習いごとに行き渋る息子。
やると決めたことはやりたくない日にもやるのだと迫る親。
毎週決まった曜日に、親子でこんな攻防を繰り返している。
◇
最近、息子が柔術のクラスを行き渋るようになってきた。
柔術を始めて1年と少し。帯の色は白から灰色に昇格した。試合があるとやる気を見せるのは前からだけど、普段の練習には、以前ほどの熱が感じられない。
「今日は行きたくない」
と顔を曇らせる日が何度か続いていた。
基本的には、まっとうな理由がなければ、行きたくなくても行かせる。「行きたくない」という気分の問題では、休ませないことにしている。
習いごとは、定期的に継続するかどうかを見直すタイミングを設けている。そこで続けると決めたものは、一定期間は途中でやめることを認めない。コミットメントというやつだ。見直すタイミングは、モノによるけれど、半年くらいか。
「行きたくない」の背景には、必ず理由がある。それを探ろうと、これまで何度も話を聞いてきた。今のところ、わたしが理解している理由はこんなところだ。
好きで始めたことでも、好きの熱量は盛り上がったり、盛り下がったりするものだ。それはわかる。
クラスの規模が大きくなりすぎていることは、保護者の間でもなんとかしてほしいという声が上がっていた。教室側は、レベルに応じてクラスを分けたり、コーチを増やすなどして対応している。以前に比べれば、少し改善されてきているように思う。
ただ、ほかの子どもの行動や態度は、どうすることもできない。秩序を乱す人がいるとしても、その中で自分がどう行動するか。あくまでも自分にフォーカスするしかない。なんてことを、息子に話したりする。
今日はクラスがある日だったのだけど、息子はまた行くのを嫌がった。
「……どうしても行かなきゃだめ?」
学校から帰ってきたときは元気に自転車に乗っていたのに、道着に着替えていざ車に乗ろうというタイミングになると、急に声が弱々しくなっている。
「どうしたの」
「なんだか寒い。それに疲れたみたい」
さっきまで元気だったけど?おやつも食べたよね?
わたしは、いつもの「行きたくない」というネガティブな気分に覆われているんだと理解して、とりあえず息子を車に乗せた。クラスに遅れそうだったので、急いで道場まで車を走らせた。
駐車場で、車から降りるよう息子を急かすと、息子は後部座席で元気なくしおれていた。
「気分が悪い。お腹もちょっと痛い」
声が出る最小限のボリュームで、ぼそぼそと口を動かす。ボク、もしかしたらひどい病気かもしれない、みたいな雰囲気を漂わせている。
わたしは、その様子をじっと見つめた。半信半疑だった。
というのは、先週も、クラスを一回休ませたことがあったからだ。あのときは、学校で心を削られるできごとがあったらしい。今日はもうどこにも行きたくないと泣いて抗議した。息子が、行きたくない理由をちゃんと説明したうえで、来週はきっちり行くと約束したので、一度だけ休んでもいいということにした。
最近、行きたくないという気持ちが、高まっているのが感じられていたので、あの手この手で行かない理由を探しているのではないかという気がしたのだ。
「ママの目を見て言ってごらん。本当に調子が悪いの?」
わたしは、じっと息子の目を覗きこんだ。息子はわたしを見つめ返して、コクンとうなづいた。
「わかった。じゃあ今日は帰ろう」
わたしは、来た道を引き返して家に戻った。
これで良かったんだろうか。わたしは、甘すぎるんじゃないか。
帰る道すがら、わたしは自分の判断に自信が持てなかった。
家に着くと、息子はすぐに自分の部屋に入り、ベッドに潜り込んだ。そのまましばらく出てこなかったので、様子を見に行くと、体が熱かった。
熱を測ると、39度を超えていた。頬がほてってピンク色になっている。
ああ、こういうことだったのね。ごめん、息子。本当に調子が悪かったのか。すぐ信じてあげられずに悪かった。
なにより、柔術のクラスに無理やり放り込まなくて良かった。
でも……、とわたしは思った。
いつも子どもの真実を見抜くって難しい。
親だからって、子どもの調子が手に取るようにわかるわけではない。さっき息子が調子が悪いと言ったときだって、その少し前までバスケットボールや自転車で遊んだところだったし、出てくる前にもおやつをしっかり食べていた。こんな急に体調が悪くなって、ましてや熱が出るなんて、ちょっと想像しにくい。
それに、子どもは成長するにつれて、したたかになってくる。自分の思い通りにことを運ぶためにどうすればいいか、知恵を絞って親に挑んでくる。習いごとに行くか行かないかということだけではない。あらゆる場面で、その試験を繰り返している。
それでも、やるべきことはやらなきゃいけない。そのことを教えたい。簡単にごまかせると思ってほしくない。
だからこそ、信じると信じないの狭間で、揺らぐことがある。
読んでくださってありがとうございます。
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