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映画 『ファーストキス 1ST KISS』を見て

私は懸念を抱いていた。
大好きな松村北斗さんが出演する映画を心から楽しめなかったらどうしようかと。
脚本坂元裕二、主演松たか子、監督塚原あゆ子という布陣なので良作であることは間違いないのだが、懸念点は二つ。
今まで寿命が決まってる系の恋愛映画で感動した試しがない。簡単にいうと趣味じゃない。
もう一つはタイムトラベル物を厳しい目で見てしまうこと。親の影響でSFは普通の人より多く見ていると思う。タイムトラベルに関して適当な描かれ方をされた場合ノイズになり本作の主題である「大人のラブストーリー」に集中できない可能性があった。

しかし、映画鑑賞から一日経った今、主人公であるカンナと駈の事ばかり考えている。生活に支障がでているため、取り急ぎ文章にすることで整理したいと思う。


・前提

カンナは過去に何度もタイムトラベルして駈生存の道を探るも、駈が事故死する未来を変えることができない。
駈はタイムトラベルしてきた45歳のカンナの話を聞き、自分の「死」を受け入れた上で、「夫婦生活」を変え、幸せな生活を送ることができた。
感想文を書くにあたり、下記の表記をします。

Xの時空:結婚→倦怠期→事故死(カンナの働きかけなし)
Yの時空:結婚→幸せな夫婦生活→事故死(45歳のカンナが最後にタイムトラベルした時空)

・カンナの後悔

離婚届を出す直前ではあったが、カンナは駈が死んでしまった事を受け止められてはいない。遺品は整理されておらず、カンナの日常は続いている。
事故が起きた日、玄関を出る駈にカンナは声をかけようとするが駈は聞かずに家を出てしまう。「行ってらっしゃい」と言おうとしていたと、物語中盤でカンナが見る夢の中で明かされる。
カンナは何度もタイムトラベルを繰り返し駈生存の道を探る。繰り返せば繰り返すほど夫へと抱いていた恋愛感情が強く蘇ってくる。カンナがタイムトラベルを繰り返す原動力は、ただ生きていて欲しいというだけではく、結婚生活に悔いがあり、やり直したいという思いがあったのだろう。

・駈の後悔

Y時空の駈は幸せな夫婦生活を送ることができる。
タイムトラベルしてきたカンナと知り合い、たった数時間のデートで45歳のカンナのことを大好きになってしまう。
結婚生活を知らないピュアな29歳の駈は、
「将来的に私たちは結婚して離婚して事故で死ぬ」
と言うショッキングな未来を告られても、キュルキュルな目で「死ぬことより君と離婚する方が辛い」と胸がくるしくなっちゃうような表情で言うのである。

では何故、Xの時空の駈は、あそこまで表情が曇っていたのか?
X時空、Y時空どちらにおいても、カンナとの交際と結婚に関しては非常に主体的に行動しているが、駈は基本的に受身な人間として描かれている。(カンナ視点で話が進むので、どうしても受身になってしまうという側面もあるが)
どちらの時空でも、生活のために研究を諦めて仕事をするという選択肢をしている。性に合わない仕事を続け、乗り気じゃない草野球に出かけていたのも、カンナと生活を続けたいという想いが根底にあったのではないだろうか。
しかし、すれ違いが重なった結果、適切なコミュニケーションが取れなくなり、夫婦関係が修復不可能なレベルに達してしまった。(そもそも駈はコミュニケーション能力が低い人間として描かれており、喧嘩後の仲直りの話し合い等ができないタイプの男性だったのでは)

それでも、最期までカンナに幸せになって欲しいという想いがあったと思いたい。

駈の行動の原動力は常にカンナである。
カンナへの愛情が完全に消えていたら、多少くるしくても仕事を辞めて研究の道に戻ったのではないだろうか。もしかしたら、離婚も「カンナが幸せになるためには離婚という選択肢が最適」という想いがあったのではないだろうか。

・倦怠期の原因

X時空での夫婦生活崩壊のトリガーは「駈が相談なく自分用のベッドを買ったこと」であろう。Y時空が二人で同じベッドで寝ているシーンから始まっていることから明らかだ。
しかし世の中には夫婦別寝の方がうまく行くという話もよく聞くので、もしかしたら駈も拒絶の意味ではなく夫婦生活を上手く回すための策としてベッドを買った可能性も考えられるが、カンナとの関係においては逆効果だった。
なので、Y時空では駈は自分用のベッドを買わない。
ベッド以外に具体的にどのような工夫をして倦怠期を阻止したかは描かれていないが、45歳のカンナに「嫌だ」と言われたことをしなかったということだろう。

・カンナの後悔は晴れたのか

この映画はX時空のカンナ視点でずっと描かれているが、終盤で急にY時空の話に切り替わってしまうため、最後のタイムスリップ後のカンナが描かれていない。カンナ視点で見ていた観客からすると梯子を外されたような感覚になってしまう。
最後のタイムスリップから戻ったカンナの記憶に、幸せだった記憶は残ってないと思うとやっぱり辛い。
物語に必要がないと思って省かれた部分だとは思うのだが、この部分に関しては自分の中で整理がついていない。

・タイムトラベル物としての本作

これに関しては正直穴だらけで、私のような人間には完全にノイズになってしまった。
まず「駈が事故で同じ日に死ぬ」こと”だけ”が変えられない理由についての説明がない。とうもろこしの茹で方を変えたり、コロッケをドーナツにすることはできるのに。
一切説明がないのはこれはSF物ではなくラブストーリーだからなのだが、個人的には引っかかるポイントとなってしまった。一番おかしいと感じたのは、非常停止スイッチのくだりで、ホームにいた人が同時に沢山死んでしまうという変化である。
ここは主題ではないというのは分かるのだが、悲惨すぎるので他の展開も考えて欲しかったというのが、正直な感想である。

・終わりに

ラブストーリーに疎くタイムトラベルものに厳しい私は、この物語をコミュニケーションの話としてとらえた。駈はリミットが分かっていたが、誰でもいつかは死ぬので、私も家族に対しても後悔しないようなコミュニケーションを取って行きたい。自分も家族も遺影の写真が少しでも笑顔であるようにしたい。

と、ここまでかしこまって書いたんですけど…

松村北斗 as 硯駈 。

めっちゃいい。

あっという間に恋に落ちてデートに誘っちゃったりする無邪気さ、
一ヶ月でプロポーズしちゃう柿ピー理論、
ハルキゲニアについて語るオタクっぽい早口、
全部好き。
プロポーズからのキッスシーンはひっと声が出ました。
やられた…。

そもそもずっと駈の人生について考えてしまうのも、松村北斗さんが松村北斗という人格を消して駈そのものになっていたからであって、ファンタジーなのに本当にあった出来事のように感じてしまったからです。

そして特殊メイクで45歳になってても魅力的だよ。
白髪もぽっこりお腹も馴染みすぎ。
本当の45歳になった時はどんな見た目になるんでしょう。
絶対に見逃さないように、何がなんでも15年生き延びなきゃと思いました。


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