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中華と店名が錯誤する、小籠包の放熱。

「餃子・小籠包 富士山」2021年1月16日(土)

音もたてずに降りしきる激しい雪は、札幌市民を否応もなく地下街へと導いてゆく。
賑わいのないすすきのから大通、そして札幌駅へ向かうほどに、どこからともなく徐々に人々が溢れ、交錯し、夕刻の地下街を彩る。
その長い地下通路も、札幌駅北口の最北端にまで辿り着くと、人の影は消えて濡れた靴音の反響が寂しげに谺する。
地上に上がると、再び猛吹雪が立ちはだかった。
ビルとマンションが同居するこのエリアは、ビジネス街と学生街の混濁した、知悉しているようでいて実は未開の地であった。

透明感のある白光が夕闇の雪に反射していた。
餃子と小籠包を冠に謳う店名は“ふじやま”と読む店名は、意図的な違和感を作り出しているような気がした。
店内は外の雪と地続きのように白皙で、屋台風のテーブルが端然と並んでいた。
どこか無駄を排除した美しさは、いわゆる町中華の世界とは異なっていた。
とまれかくまれ、青島ビールを頼むことにしたが大瓶は珍しい。


マスク越しから笑顔が伝わってくる女性スタッフに、「小籠包6個セット」と「空芯菜炒め」、「こぼれ麻婆豆腐」と「マグロ麻辣」、アテとして「ピリ辛キュウリ」をお願いした。
『小籠包はお時間がかかります』と親切な事前説明されたことによって、青島ビールのアテとして「ピリ辛キュウリ」の存在意義は高まった。
日本のビールにはない澄み切ったビールが喉を次々と通り過ぎてゆく。
それは、これから到来する料理を堪能する通過儀礼のようなものだ。
「ピリ辛キュウリ」の辛味と切れ味の絶妙。
「マグロ麻辣」のパクチーの苦味とマグロの旨味の巧妙。


「こぼれ麻婆豆腐」と「空芯菜炒め」の到来は、ご飯を求めてしまいたくなるほどの風貌と味つけで、とりわけ「こぼれ麻婆豆腐」は文字通り表面張力の均衡を破って溢れ出ていた。


「小籠包6個セット」の登場は立ち込める湯気の中で熱の放射を我慢強く耐えているようだ。
プレーン、カニ、トリュフ、何から食べようが溢れ出る肉汁。
小籠包の堪能とは、忿懣の熱を口内から外界へと飛び放つことを拒絶することにある。
香り豊かなそれぞれの小籠包は、温もりから熱さへと変幻していった。


外はずっと猛吹雪に見舞われている。
その中で食べる中華料理の数々は、アジアへの旅を夢見させた。
会計を済ませ、扉を挟んで店内の“アジアの熱気”から“北国の極寒”へと跨いだ。
外まで見送ってくれたスタッフのマスク越しから溢れる笑顔に、“アジアの熱気”にも“北国の極寒”にもない、優美な温もりを背中越しに感じた…

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