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【孤読、すなわち孤高の読書】杉本貴司「ユニクロ」

作者:杉本貴司(1975〜)
著書名:「ユニクロ」
刊行年:2024年刊行(日本)

山口県から日本、そして世界の頂点を目指すユニクロの変遷と精神の軌跡。

【読後の印象】
おそらく日本人のほぼ誰もが「ユニクロ」と名の付いた服を持っているだろう。
それほどまでにこのブランドは深く根ざしたと言って良い。
そして今や、日本を代表する世界屈指のトップブランドとして成長を遂げた。
しかしながら、その軌跡の背後には失敗と挫折の果てしのない連続でもあった。

日本経済新聞編集委員の杉本貴司氏の手によるこの書は、単なる成功を遂げた日本企業の歴史を掘り返したものではなく、現代日本の商業美学の極北を冷徹なる分析の筆致で描き出した一冊と言える。
さらに言えば、資本主義がもたらしてきた空虚な消費社会の中で、山口県の片隅の一青年だった柳井正が、無気力で恬淡な自己を、ユニクロというブランドを、さらに衣というアパレルを問い続け、悩み続けた過程と“即決断・即実行”によって変遷する姿を克明に描いている。

哲学的問答を繰り返し、現状を否定し、未来を見据えて辿り着いた「Life Wear-ライフウェア-」というコンセプトの根源とその過程を浮き彫りにし、柳井正の卓越した指導力とともに、ユニクロの行く末をも予見する。

ユニクロが推進する技術革新は、薄い衣服の内奥に脈動する熱情と持続可能性をも纏っており、HEATTECHやAIRismといった新素材の創出によって、たんに「衣服」を「装う」行為から、生活に密着する精神的な「道具」へと昇華させたことは、現代におけるアパレルイノベーションと言っても過言ではない。
こうして織り成してきたユニクロという美学は、ただ実用性だけに終始するのではなく、まさに「日常に寄り添う美」を目指しているのだ。

かてて加えてユニクロの世界市場への進出は、一国の歴史をも意のままに操る覇者のような戦略を以って遂行される。
著者は冷静な観察者としてその過程を隅々まで描き出し、異国の文化と交錯する瞬間に生まれる数々の軋轢をも見逃していない。

この書は、ただのビジネス書には収まらぬ。
現代における「服」という存在の真意を探る者にとっても必読の書であり、商品としての衣服を超えた「Life Wear-ライフウェア-」の背後に潜む株式会社ファーストリテイリングの経営哲学の具現化を描いた書である。


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