【人生最期の食事を求めて】四国における松山の矜持を保つ肉うどんの立ち位置。
2023年3月15日(水)
ばっちこい(愛媛県松山市)
“うどんと言えば香川県”というブランド構築は、うどん県というネーミングやタレントを起用した巧みな広報戦略によって成功したのは確かだろう。
ある調査によっても、うどんの消費量ランキングでも、香川県が圧倒的でそして秋田県が準ずる。
さらに関西以西が上位に名を連ね、あらためて食文化の地域性というものを認識した。
ところが、愛媛県におけるうどんというイメージは実は皆無である。
愛媛県民がそれをどう反応するかはさておき、松山市民からその店を教えてもらい足を向けた。
前日の飲み過ぎと寝不足で倦怠感の抜けない体に傾斜の軽い坂道は罰のようだったが、降り注ぐ春の陽光がともかく心地よかった。
この倦怠感にはむしろうどんが適していると思いながら店の道程を辿った。
UDON DINING BATTIKOIという不可思議な看板が迫ってきた。
“ばっちこい”
私はスマートフォンを取り出し、その言葉を検索した。
野球人ならすぐにわかるだろうが、「バッターよ、打ってこい」という意味であるらしい。
その由来が経営者が野球経験者ゆえなのか、うどんを打つという意味ゆえは定かではないのだが。
うどん店らしくない看板デザインと大型バイクに一瞬目を奪われながら店に入った。
券売機の横にメニューが掲げられていた。
日常的に食することのないうどんとこの体調は、タッチパネルスタイルから「肉うどんお温」(740円)とトッピングに「ちくわ天」(140円)を選んだ。
12時前だった。
私の後から客が次々と入ってきた。
その服装や雰囲気からして地元の住民のように思われる。
そこへ肉うどんが運ばれてきた。
大きな器からは仄かに汁の薫りがたゆたっていた。
それにしてもボリュームがある。
そっと汁をすすった。
優しさの中に独特の甘みを有した風味が駆け抜けた。
麺は讃岐うどんさながらの太さとコシを有していて、淡白な味わいの中にその存在を刻み込むような弾力性を孕んでいる。
そこへトッピングのちくわ天が訪れた。
その大きさはうどんを意識し凌駕しようとでも言わんばかりのボリュームで、コシのうどんを噛み続けている只中にあっては強者の様相を呈していた。
私の少ないうどん体験からして、松山うどんの立ち位置とは香川のそれとどのような差異があるのだろう?
そして、うどんひとつ取っても多様な味わいがある四国という土地柄に幾ばくかの興味を抱いた。
何よりも、3月の陽光がこれほどまでに安穏とし伸びやかに過ごすことのできる魅力を実感しながら、最後の汁を飲み干すのだった。
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