【夏の文庫フェア】【キュンタ】『許されようとは思いません』芦沢央
人間の狡さ、残酷さ、恐ろしさから目が離せない一冊。
夏の文庫フェア、5冊目。新潮文庫の100冊より、『許されようとは思いません』(芦沢央 著)を読んだ。
人間の優しさや温かさに触れる本も大好きだが、怖さを描く本も、ページを捲る手が止められなくなるのだなと感じた。ぞっとする感覚が夏にぴったりだ。
人間の狡さ、残酷さ、恐ろしさを描く5編
村八分にされてきて、最後には義父を殺めた祖母の故郷を訪れる男性とその彼女を描く表題作。
そのほか、伝票の入力ミスを誤魔化そうとして、次第に大事に巻き込まれていく若手社員、子役の少女と彼女を厳しくコントロールするマネージャーの祖母、両親や子どもをひどい状況で亡くし、夫を殺した女性画家、姉の逮捕で追い詰められていく若い母親が描かれる。
人間の狡さ、残酷さ、恐ろしさが描かれており、目を覆いたくなるようなものもあれば、自分も一歩間違えればそうなってしまうかもしれないという他人事でないものもある。収録されている順で1作目から4作目までは、後味も悪いのだが、読むのをやめられない面白さ、妖しい魅力があり、次々読み進めてしまった。
『姉のように』の構成に感動
どのお話も心に残っているが、特に印象的だったのは、姉の逮捕で追い詰められていく若い母親を描く『姉のように』。
その構成に感動した。途中で違和感を持ち、もしかして…?と気付き始めたが、自分も偏見を持つ「世間」に加担してしまうかもしれないという怖さを味わい、ぞっとした。
最後はほっこり
後味の悪さを引きずりながら最後まで読むと、最後はほっこりする。
自分にもきっとある黒い部分から目を背けず、でも正直に、誠実に生きていきたいなと余韻の中で考えた。
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