【読書】『琥珀の夏』辻村深月【絶対の正解なんてない】
社会に出てから、何が正解なんだろうと悩む日も少なくありません。学生時代、答えのある問題で正解を出すことには熱心に取り組んできましたが、それなのにというのか、だからこそというのか、社会人になってからは、正解を探すことの難しさを実感しています。
そんなことを思うとき、よく聴く曲が2つあります。
RADWIMPS『正解(18FES ver.)』
あぁ 答えがある問いばかりを 教わってきたよ
だけど明日からは
僕だけの正解をいざ 探しにゆくんだ
菅田将暉『まちがいさがし』
間違いか正解かだなんてどうでもよかった
今回、『琥珀の夏』(辻村深月 著)を読んで、この辺りのことを考えました。絶対の正解なんてないんだ、と。
ミライの学校
大自然の中にある教育施設「ミライの学校」の跡地で、女児の白骨死体が発見されました。
この「ミライの学校」は、子どもたちを両親から引き離し、子どもの自主性を大切にして、「問答」という話し合いをしたり、自然との触れ合いの中で学ばせたりしながら自ら考える力を育むという団体で、ある種の宗教団体のようにも見られていました。
弁護士の法子は、孫が発見された遺体の女児ではないかと心配した夫妻の依頼を受け、「ミライの学校」と接触します。実は、法子は小学生の頃、クラスメイトのユイに誘われ、夏休みの間だけ、合宿のような形で「ミライの学校」を訪れたことがありました。
法子は仕事として「ミライの学校」と関わりながら、見つかった遺体はかつて法子が出会った「ミカちゃん」だったのではないかと疑っているのでした。
印象に残った3つの点
このお話を読んで、心に残った3つの点について書いていきたいと思います。
まず1点目は、冒頭で述べた「絶対の正解なんてない」ということです。
子どもの教育方針。子どもを愛することと、預ける場所を必要とすること。クラスでの立ち位置。その場所を楽しいと思うことと、家に帰りたいと願うこと。他人が信じていることと、自分が信じていること。
「正解も、これが絶対という正しさも、この世の中には明確に存在しないかもしれないのに、それがあると思えることこそが、誰かに導かれた考え方だ」というミカの言葉は重く響きます。
2点目は、辻村さんの他の作品も同様なのですが、外から見ると成功者に思える人が実は抱えているものを丁寧に描いているところです。
法子は、夫も自身も弁護士、可愛い娘もいて、両親も健在でと、一般的に上手くいっている、恵まれた女性です。しかし、小学生の頃は友人関係に悩んでいましたし、今も、子育てにおける葛藤を抱えています。「ミライの学校」の問題を通じて、自分自身とも深く向き合っていくこととなります。
法子のクラスメイトだったユイは、可愛くて勉強も運動もできて、男子からも女子からも好かれる人気者でしたが、背負ってきたものは大きいです。
「勝ち組」「成功者」という表面的な見方で片付けず、外から見ると成功している人が抱えているものが表現されることで、登場人物が本当に生きているように感じられます。
3点目は、ミステリーとしての面白さです。白骨死体は誰のものなのか、ミカは何者なのか。謎解きの面でも、最後まで興奮が続く一冊です。
夏は終わってしまったけれどおすすめ
題名に「夏」が含まれているので、夏の間に読もうと思っていましたが、気付けば秋になっていました。
夏は終わってしまいましたが、おすすめの一冊です。教育、女性の生き方、友人関係、親子関係、宗教団体、子育て。様々な要素が含まれているので、あなたと私では注目するポイントや感じること考えることがきっと違うと思います。ぜひ読んで、感想を教えていただけたら嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。