【読書】『猫のお告げは樹の下で』青山美智子【お話の世界のことだから、で終わらない魅力】
『猫のお告げは樹の下で』(青山美智子 著)を読みました。本屋大賞ノミネート作品である『お探し物は図書室まで』で青山さんの作品と出会い、その優しさの虜になり、他の作品も読んできましたが、こちらで5冊目です。
普段、なんとかごまかして自分の中で処理しているもやもやを取り出して、丁寧に解きほぐしてくれるような温かさがありました。
タラヨウの葉に書かれた猫のお告げ
細い道の奥にあるその神社には、ひっかいて葉に文字を書けるタラヨウの樹がありました。時折、お尻に白い星のある猫が、お告げの書かれた葉を思い悩む参拝者の前に落とします。
タラヨウは「郵便局の木」として定められており、その葉は切手を貼れば送ることができます。花言葉は「伝える」。
葉に書かれたお告げの言葉は、「ニシムキ」「チケット」など、一見何を指しているのかわからないようなものですが、参拝者たちは、その言葉をヒントに前に進んでいくのです。
魅力①共感できる悩み
このお話の魅力の1つ目は、参拝者たちの悩みが「わかる」というものばかりであることです。
参拝者は、小学生からおじいちゃんまで、様々です。私は特に、大学卒業後の進路に迷う慎と、ネガティブな感情を抱えてしまいがちな千咲に共感しました。
自分にしかできないことが見つけられずに焦ること。
誰かと比べて、目の前のことに追われて、余裕を無くしてしまうこと。
日常生活で、仕方ないと半ば諦めて誤魔化しているもやもやした気持ちが言語化されていて、自分と改めて向き合うことができました。
魅力②登場人物たちの繋がり
このお話は連作短編集で、登場人物たちの繋がりを楽しむことができます。
この作品内だけではありません。他の作品に登場した人物と再会することもでき、とても嬉しい気持ちになりました。
青山さんの作品を読む順番にもよりますが、「あ、あの本の誰々だ」という気付きは、学生時代の友人と久しぶりに会うときのような喜びをもたらしてくれます。
魅力③お話の世界のことだから、で終わらない
そして、これが一番の魅力だと思うのですが、「お話の世界のことだから、上手くいきすぎ、できすぎ」という気持ちにはならないのです。
俯いていた人がもう一度顔を上げること。ぴったりのタイミングで、必要な人や言葉と出会うこと。気持ちを切り替えたり見方を変えたりして、世の中と対峙していく勇気を得ること。
「現実はそんなに甘くない」。このような言葉で流してしまうのではなく、この本を読むと、実際に前を向くことができるのです。
その理由は、参拝者がお告げの効果だけではなく、自分の力で道を切り開いていることだと考えます。お告げも一つのきっかけであることは間違いありませんが、登場人物たちは自ら考えて、行動しています。私もこの本で出会った素敵な言葉を胸に一歩踏み出してみれば、見える世界が変わるかもしれないと思えるのです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
疲れたとき、困ったとき、こちらの作品でぜひ元気を取り戻してみてください。
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