【読書】『神様の罠』【六人六色のアンソロジー】
『神様の罠』(辻村深月、乾くるみ、米澤穂信、芦沢央、大山誠一郎、有栖川有栖 著)を読みました。
著名なミステリー作家6名の方によるアンソロジーです。とても豪華な一冊で、たっぷりと楽しむことができました。
本書を味わうポイントについて、大きく3つに分けて紹介していきます。ぜひ、皆さんも手に取ってみてください。
ポイント①題名
ポイント1つ目は、題名です。題名の意味を考えることで、より深くこの作品を味わうことができると思います。
私は、ミステリー作家のアンソロジーの題名が『神様の罠』ということで、まずは思いがけず起こしてしまった事件、ひょんなことから判明する犯人といったものを思い浮かべました。
読んでいくうちに、著名なミステリー作家である「神様」たちが、私たち読者に罠を仕掛けているのかな、とも考えました。
ポイント②コロナ禍が描かれている
ポイント2つ目は、いくつかの作品で、舞台がコロナ禍の今となっていることです。読者一人ひとり、置かれている状況は異なっても、本書に登場するような苦しみや複雑な思いについて、共感できる部分が多いのではないかと感じます。
私はコロナ禍が描かれている作品を読むのが初めてで、とても新鮮でした。「毎日マスクをしていたこんな時代、あったよね」と懐かしく思いながら本書を読み返す日が、早く訪れますようにと願いながら読みました。
ポイント③六人六色、一味違うストーリー
ポイント3つ目は、なんといっても、十人十色ならぬ六人六色のストーリーです。意外性に重きが置かれたり、心情描写が特に大切にされたりと、1つ1つ、全く違うお話です。
また、必ずしも殺人事件が起こるわけではなく、天才的な探偵が登場するわけでもないという点で、いわゆるミステリーとは一味違うストーリーとなっています。
本書に収録されている6つの作品について、紹介していきます。
🗝『夫の余命』乾くるみ
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2020年7月。美衣は、病院の屋上にいる。1年前に結婚した時から、死によって夫の貴士を失うことはわかっていた。「過去に戻りたい」と願う美衣の記憶は、現在から過去へと遡っていく。
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乾くるみさんがどのようなトリックを使われる方かは知っており、身構えて読みましたが、それでも騙されました。
あまり考え過ぎず、終わりが見えている結婚生活の切なさを感じつつ読み進めていくと、驚くこと間違いなしです。
🗝『崖の下』米澤穂信
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群馬県のスキー場で、スノーボードをしにきた5人組のうち、4人が遭難してしまう。翌日、2人が発見されるが、そのうち1人は他殺体として見つかった。しかし、警察がいくら探しても、凶器が見当たらない。
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凶器の謎や動機、5人の関係性など気になる点は色々あるのですが、一番印象的だったのは、表現がとてもリアルで、遭難の辛さや怪我の痛みが自分のことのように想像できたことです。
私は骨折などの大きな怪我をしたことがありませんが、登場人物たちの痛みを私も感じられるくらい、物語に入り込みました。
🗝『投了図』芦沢央
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古書店を営む美代子と夫。その街で、将棋のタイトル戦が開催された。街全体が万全の感染対策のもと歓迎ムードだったものの、コロナの観点から中止を求める張り紙が貼られるという事態も起こる。美代子は、張り紙の字が夫の字に似ていることに気づいた。夫は大の将棋好きであり、そんなことはないはずと自分に言い聞かせるが、疑惑は拭えない。
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コロナ禍の葛藤が感じられて、読んでいて苦しくなりました。
また、次の一文が特に心に残りました。何かを諦めるとき、自身の間違いを認めるときの哀愁と凛とした美しさの双方が感じられる言葉だと感じました。
投了は、自分が間違えて、積み上げてきたものを台無しにしてしまったことを、自ら受け入れる行為なんだよ
🗝『孤独な容疑者』大山誠一郎
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妻を亡くし、趣味で俳句作りをしている男の「二十三年前、私は藤白亮介という男を殺したのだ」という告白から始まる。借金の返済を迫られ、揉めて衝動的に殺してしまったという。とあるアリバイ工作により逮捕されることはなかったが、警視庁付属犯罪資料館の館長とその部下が、今になって再捜査を開始した。
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館長の緋色冴子のキャラクターが好きでした。淡々と論理的に詰めていくところがとても格好良く見えました。
関係者も多くなく、事件もシンプルで、わかりそうなのにわからないという感覚になりながら読み進めました。緋色冴子が一つ一つを解き明かしていくのが気持ち良かったです。
🗝『推理研VSパズル研』有栖川有栖
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江神部長のもと、織田、望月、アリス、マリアが属する推理小説研究会に対し、パズル研究会が問題を出してきた。
ある村に100人ほどの住民がいて、そのうち10人は青い目、他の人たちは緑の目をしている。村人たちはいかなる方法によっても自分の顔を見ることができず、お互いに相手の目の色について話すこともタブーとされていた。「自分が青い目をしていると判った者は、それを知った日のうちに自ら命を断て」という掟があるこの村で、ある日、外部から来た人が「この村には青い目の人がいる」と言った。このとき、村では何が起こるか。
江神部長は軽々と回答を出すが、推理研としては、このパズルの設定が何を表しているのか、いつの時代のどのような場所でこのようなことが起きたのかといった謎も解かなければならないと言い、皆で考えていくこととなる。
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この問題自体はどこかで聞いたことのあるものでしたが、推理研のアプローチがとても新しく、このような考え方もあるのかと楽しめました。
「それはそういうものだから」という決めつけを一旦捨ててみると、新たな景色が見えるのかもしれないと感じました。
🗝『2020年のロマンス詐欺』辻村深月
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大学入学のために上京した耀太だが、コロナの影響で授業が始まらず、バイトも見つからず、一人で自宅で過ごす日々が続いていた。そんなとき、地元の友人からあるバイトを紹介される。リストにある人々に、異性のふりをしてSNSでメッセージを送るというものだ。犯罪ではないと言われ、このバイトを始めた耀太は、「未希子」という女性とやりとりを重ねていく。
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耀太の孤独を考えると、なんとも言えない気持ちになりました。一生懸命に受験勉強をした結果が、毎日家にこもる日々だった学生さんのやるせなさを想像すると悲しくなります。
純粋で真面目な耀太があれよあれよという間にトラブルに巻き込まれていく様子に、先が気になって仕方ありませんでした。
最後の場面が好きでした。耀太たちが、少しでもしたいことをできる日常でありますように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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