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【夏の文庫フェア】【ナツイチ】『大人は泣かないと思っていた』寺地はるな
自由と責任について考える、ちょっぴり大人の香りがする一冊。
夏の文庫フェア、8冊目。今回は集英社文庫のナツイチより、『大人は泣かないと思っていた』(寺地はるな 著)。
古い価値観と自らの意思
舞台は九州の田舎。出身の高校で判断されて、「家」が大事にされて、男らしさ女らしさという言葉がためらいもなく使われるような、そんな古い価値観の残る地域だ。
そんな地域で、32歳の翼は父親と二人で暮らしている。母親は翼が大学生のときに出て行った。ある日、翼は、翼の家の隣に住む絹江というおばあさんの孫で、22歳のレモンと出会う。翼とレモンは、自分をしっかり持っている。
本書は、彼らのほか、
翼の友人で「男らしい」といわれる鉄也、
鉄也の恋人で、おかしいことはおかしいと言える、しっかりとした考えを持つ玲子、
今は会社を経営する翼の母親、
翼の同僚でみんなと同じでありたいと思う貴美恵、
時代の変化に適応できず古い価値観に縛られる鉄也の父親
など、様々な人たちにスポットライトを当てた、連作短編集である。一人ひとりが、古い価値観と自らの意思の狭間で生きている。
自由と責任
お話を読むにつれ、「こうでなければ」という凝り固まった価値観から解放され、救われた気持ちになる。一方で、道を自分で選ぶということは、その選択の責任を持つことでもあるので、なんだか身の引き締まる思いがした。
上手くいかないことについて、「女性だから」「みんなそうだから」「周囲にそう期待されているから」といった言い訳は、もう使えない。「仕方ない」で済ませられない。誰かのせい、環境のせいにはできない。
かつて通った学校の校訓であった、「自由と責任」という言葉を私は今でも大切にしている。自分の選択にしっかりと責任を負えるよう、強くありたいと思う。
しかし、責任を持つことは、一人ですべてを抱え込むこととは違う。それを感じられる最終章、とても良かった。自分一人で何でもできると過信せず、必要なときは誰かを頼ること、無理をしすぎないことも、自分に責任を持つことの一つだろう。そしてもちろん、支えてくれる周囲に深く感謝することも重要だ。
時に泣いても良い。でも、「自由と責任」を両方自らの手で抱えられる、本当の大人でありたいと思う。
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