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新型コロナに見るリスクマネジメント
2019年11月末に中国武漢で「原因不明のウイルス性肺炎」が発症し、その後新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に蔓延してすでに5ヶ月が経とうとしている。その間、各国の対策によって「今日」の状況が全く異なってきている。それは都市の性質や人口密度、人々のウイルスの受け止め方などによって感染が異なるが、最も人為的に依存したのがリーダーのリスクマネジメントに対する決断力と行動力に依存している。つまり、リーダーがリスクマネジメントの理解度によって「今日」という日が違ってきているのである。ここでの「リーダー」とは、首相や大統領、知事や首長といった方々だけではなく、小さな団体や家族のリーダーも含まれる。
封じ込めに成功した国が成し遂げたこと
新型コロナの封じ込めに成功した国として報道されている、台湾、韓国、ドイツは何をしたのか考察してみる。
台湾は、ウイルス対策が毎年のように頻繁な国の一つである。今回の対策において、デジタル担当の政務委員(大臣)に起用されたホワイトハッカー、オードリー・タン氏が、マスクの在庫データを管理するアプリを活用し、どの店にどのくらい在庫があるのかを市民が把握できるようにした。そして、買い占めなど混乱を防ぐために政府がマスク全量を買い上げて流通を管理する制度を導入したことで安定的供給が図られたのである。さらに、水際対策や入国者の隔離対策を徹底したことも高い効果があった。
韓国は、ウイルス感染者が一気に増加し対応が後手に回った。しかし、ウイルス検査の「ドライブスルー方式」によって大規模な検査を行ったことで封じ込めに成功している。
ドイツは、韓国同様に大規模なウイルス検査を行っていた。ドイツでは集中治療病床が世界有数であり、人口比では日本の約6倍にあたる。現在では、イタリアやフランスからも重症者を受け入れている。
「リスクマネジメント」はいたってシンプル
リスクはその影響と頻度によってレベルが異なる。そして、リスクが発生した場合、特に重要なのは、下図の「リスクの回避」と「リスクの低減」である。
先述した国の対策と、上図を照らし合わせると次のようになる。
台湾は「低減」と「移転」タイプ
台湾の対策は、マスク在庫の混乱を「低減」させて一元管理によって安定的な供給を行った。さらに水際対策は国内にリスクを持ち込まない予防処置であり「移転」に相当する。つまり、台湾ではリスクヘッジをすでにとっていたため「回避ゾーン」には至らず、封じ込めに成功したのである。
韓国は「回避」から「低減」タイプ
当初は感染者を多く出し、危機的な状況であった。しかしリスクヘッジを生み出すことに成功し、その手法を国内中に水平展開したことは「低減」へとつながっている。
ドイツは「低減」から「保有」タイプ
他国とは異なり医療崩壊をあらかじめ予防する対策を講じていたのがドイツである。つまり、ヒヤリハットなどで事前に「低減」を行っていたのである。このため多くの感染者を出しても医療崩壊やパンデミックにつながることなく封じ込めに成功している。さらに、隣国からの患者を受けいれる行為は、新型コロナと他国から入れてもリスクとならない対策があるからで、すでに脅威となっていない。つまり「保有」できる国なのである。
日本は何タイプ?
現状の日本はどうだろうか。全国に非常事態宣言が出たことで、十分なマスクを入手できただろうか。解雇や倒産せずに済んだだろうか。下図は新型コロナウイルス関連倒産の発生時期分布(帝国データバンク|2020.4.24)である。
非常事態宣言によって安定した社会の継続は今は困難な状況である。
これらの状況を見ると、日本は「回避ゾーン」をぐるぐる回っている状態に見える。外出自粛や閉店・休業は一見低減にも見えるが、一方で自粛に応じないケースも多く、”とりあえず対策してみた”という状況にあり、PDCAがうまく回っていない現状は「低減」ではなく未だ「回避」の渦中にいる。
どうすればいいの?
予期せぬリスクが発生した場合、「回避」からスタートすることが多い。大切なのは、どの段階で「低減」に移れるかである。最初はアルコール消毒がマストだったが、低減モードになった今は、手洗いうがいの励行で感染が予防できることを知った(マスクやアルコールは未だ品薄混乱状態ではあるが)。また、日ごろからリスクの発生を予測した「移転」の手段をとっているかも重要である。
コロナショックは長期化するであろう。大切なのは、三密や手洗いなど個人や集団でできることを確実に行い、「保有」しながら生活していく。つまり、見えないウイルスにおびえて引きこもりになるのではなく、新型コロナの性質を十分に理解して普段の生活での確実な対応により感染を封じ込めることが重要なことだと思う。
以上、リスクマネジメントを理解することでリーダーや個人の皆さんが目の前のリスクに対して即判断し行動することができるようになるでしょう。リスクマネジメントはあなたができる最大の新型コロナ撃退手法なのです。