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子どもの書字障害をより深く理解するための手書き動作分析(論文メモ)

大学院のコースワークの中で読んだ論文について書いてみる。今回読んだ論文は以下のとおり。間違った解釈があるかもしれないので注意。

Acquisition of handwriting in children with and without dysgraphia: A computational approach (T. Gargot et al., 2020)

これは身体動作と学習(熟達)の関係を扱った研究を調べていて見つけたもの。展開がわかりづらくて読解に苦労した😭 

概要

書字障害の診断は、紙とペンを用いたテストに基づいて専門家が判定する方法が一般的である。タブレットとスタイラスペンと機械学習を用いるアプローチは、これをより精緻化・効率化しうる。さらに、書字障害の早期発見やより適切な個別ケアの提供につながると期待される。
本研究では、コンピュテーショナルな手法を用いた著者らの先行研究で得られた書字障害を持つ子どもの手書き動作の特徴の知見を応用し、以下を目指す。
1)書字障害をもたない子どもの手書き動作の特徴を明らかにする。
2)書字障害の有無の各グループにおいて、学年の違いで手書き動作の特徴がどのように異なるかといった点から、熟達過程の理解を試みる。
3)書字障害を伴う手書き動作の特徴をクラスタリングし、症例パターンの理解に新たな視座をもたらす。

新規性/優位性

先行研究で得た知見を基にさらなるモーション分析を行うことで、書字障害の臨床診断にとどまらない発展的な研究を展開している。

技術のキモ

手書き動作の理解
・先行研究で特定した書字障害に関連する12の特徴群。Static、Kinetic、Pressure、Tiltの4区分からなる。
・多変量回帰モデルに導入した「学年 ✗ 標準化された各特徴量」の交互作用項。これによって学年による影響を考慮する。
・倫理的な観点から、書字障害があるグループとないグループのデータを直接比較することを避ける。代わりに、書字障害のないグループの情報および両グループ混合の情報を比較する。

症例パターン
・K-meansを使用。クラスターの数はエルボー法で決定(k=3)。

有効性の検証方法

手書き動作の理解:タブレットで取得した特徴量の分析
書字障害の有無それぞれで小学1〜5年生からなるグループを構成。
障害の有無の判定には既存の診断方法を用いる。
なおそのスコアは機械学習モデルの予測対象となる。
タブレットとスタイラスペンを用いる診断方法でデジタル手書きデータも取得。
デジタルデータを基にした多変量回帰モデルで既存の診断方法のスコアを予測。
書字障害のないグループの特徴量および両グループ混合の特徴量に統計的差異があるかを検定。
→ 書字障害を持たない子どもの手書きについて、3つの特徴を特定。
→ 成長に伴う手書き動作の熟達過程に関する分析は困難であると判断。

症例パターン:クラスタリング
書字障害のあるグループについて、タブレットとスタイラスペンで取得した特徴量をk-meansでクラスタリング。その結果を性別、年齢、症状の重さといった統計データと突き合わせて分析。

議論・リミテーション

・フランス語圏の手書き分析である。
・書字障害のないグループ個別の分析および混合グループの分析において、解釈の整合性がとれない結果がでた。そのため、年齢ごとのスキルの熟達過程については分析がおよばなかった(特定の子どもの成長を追うことで熟達過程のデータを取得するアプローチの必要性が示唆された)。
・各クラスターの標本サイズは非常に小さく、クラスタリングによる知見の一般化可能性は不透明。