「塩漬け」は確かに面白くはないけれど・・・
格闘技の試合では常にフィニッシュが求められ、その試合を観戦する者たちからも同様に激しい展開やアクションが期待されることになる。
そういった「動き」のある試合は確かに面白くて分かりやすい。
何よりも会場を盛り上げ、観客の気分を高揚させることになる。
だからこそ一番にフィニッシュが求められることはよく分かるし、試合に臨むファイターにとってもそれは実力を証明する材料となる。
故にMMAの試合の感想にはしばしば「塩だった」「グラウンドの展開ばかりで面白くなかった」というような、競技の性質をやや無視したようなコメントが残されることがある。
その中でも特に批判が向けられるやすいのが「塩漬け」になるのではないかと思う。
塩漬け
テイクダウンとトップコントロールで対戦相手を制圧し、押さえ込むことでポイントを稼ぎ、勝利へと結びつける安全かつ一方的な戦法。(個人解釈)
確かにこの戦法はMMAの面白くない要素を集めたような戦い方になっていると感じるが、このやり方で勝利を収めるファイターを評価することが出来ないかと言うとそうではないような気がする。
ただ、前提として現在のMMAでは打撃によるダメージが重視される傾向にあるので、コントロールしているだけではポイントを稼ぐことが出来ず、「塩漬け」が有効な手段として数えられないような状態になっている。
どれだけコントロールタイムが長くても、相手の方が有効打を生み出していると判断されれば判定で負けてしまうことになるので、コントロールするだけでは勝てない時代になって来ているのは確かだ。
なのでこれからはより過激な「塩漬け」戦法が見られることになってくるのではないかと思う。
その上で、そもそもその戦法を採用することが出来るファイターの技術的な優位性に着目したい。
「塩漬け」=技量の差
KO/TKOや一本は明確な勝利を示す決定的な勝ち方になるので、誰が見ても分かりやすい結果をもたらすことになる。
その一方で「塩漬け」による判定勝利は、リングやケージに上がっている選手に言い訳のできない実力差を感じさせるような勝ち方になっているのではないかと思う。
つまり、「塩漬け」はその技量の差を痛感させる戦い方になっているのではないかと思われる。
それだけの差を見せつける戦い方が出来ているということはMMAファイターとしてのクオリティの証明でもあると思うので、面白くはないが腕はあるという風に一定の評価を向けることが出来るのではないかと思う。
プロとして戦いの場に上がっている者に無力感を与えるような勝ち方が出来るというのは、競技者として優れている証と言えるだろう。
もしかするとその優秀さは同じ土俵に立つ選手が誰よりも強く感じ取っているのかもしれない。
地味でパッとせず、面白みもない戦い方であるが故にその能力の高さを評価されない傾向にあるが、対峙した選手は技量の違いを見せつけられ、その力量の高さを知ることになっていると思うので、見た目以上に力の差を示す戦い方になっていると言えるのではないかと思う。
安定した技術=実力者
対戦相手に「塩漬け」の展開を強いることが出来る技術力を持ったファイターは、それだけ安定した技術や知識を身に付けていると思われるので、単純に対応能力が高いという長所を持っている可能性が高い。
日本の中で例を挙げるならRIZINフライ級のベテランファイターである扇久保博正になるのではないかと思う。
彼は「塩漬け」のファイトスタイルを自虐ネタのように語っているところがあり、一つの強みとして試合に取り入れている。
実際扇久保はグラウンドや組みの展開に強く、経験によって生み出された厚みを感じさせるような対応能力を見せている。
そのため、粘り強さや簡単には攻略出来ない厄介さを持っており、結果的に激闘を制することが出来るところからもその土台の大きさを窺い知ることが出来る。
そこから生まれる安定感が勝利を重ねることへと繋がり、実力者へと押し上げていくことになるのだ。
凡庸なように見えて確かな技術をその身に宿しているからこそトップコントロールで制圧するという選択肢を採用し、活かしていくことが出来るのだろう。
まとめ
戦い方として「塩漬け」は確かに面白くもなければ魅力もない。
しかしその「つまらない」の向こう側にある圧倒的なスキルに目を向けることが出来れば、面白くはなくとも「目を見張る」要素に気がつくことが出来るのではないかと思う。
幅広い技術が活用されることになるMMAは面白くないところに複雑さや奥深さが眠っていると感じるので、激しい展開以外にも目を向けて掘り下げていくとより楽しむことが出来るのかもしれない。
ただ総合格闘技は情報量が多い競技になるので、競技者でないとなるとさらに難解な種目となってくる。
しかしだからこそ面白く、味わい深いスポーツになっているのではないかと感じている。