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延期となったイブの決戦
目前にまで迫っていた井上尚弥VS.サム・グッドマンは、グッドマンが練習中に左目上をカットしてしまったことで延期となってしまい、楽しみにしていたファンにとっては消化不良を感じるような年末となってしまった。
しかし一生懸命に練習を積み、目標に向けて最善の注意を払いながら調整をしていたとしても「怪我」の発生は完全には防げない。
なので仕方ないと言えば仕方ないのだが、井上尚弥との対戦が目されてからグッドマンがその機会を逸したのは今回で2度目だ。
この階級のボクサーにとってこれ以上ない相手であるはずの4団体統一王者を目の前にしながら、挑戦者側がその機会を2度も伸ばす結果となっている。
この流れの悪さには違和感を感じざるを得ない。
1度目は井上からのコールに応えながらもノンタイトル戦を先に選択するという判断を下し、わざわざ対戦を12月に伸ばしている。
そして今回は怪我というアクシデントで対戦がさらに1ヶ月伸びてしまった。
このことを考えると、仮にグッドマンにかなり寄った見方をしたとしても、そもそもグッドマンは井上尚弥という偉大な王者と戦えるだけの縁があまりない選手だったのではないかと思ってしまう。
少し抽象的な印象ではあるけれど、ヘッドギアを着用しながらもカットしてしまうという「不運」は、そんな漠然としたイメージを持たせるのに十分な要素となっているのではないかと思う。
まるで目には見えない流れがグッドマンの意思に反してこの戦いを避けているかのような、挑戦者陣営はそれくらいの間の悪さを感じさせている。
また今回の怪我はかなりの「不運」であったかもしれないが、人によっては出場することを選択する可能性もある範囲のものであるらしく、怪我の中でも致命的なレベルにはないという見方もある。
しかし万全を期したいグッドマン陣営は延期を申し出て1ヶ月の期間が設けられる形となった。
この「万全な状態でなければやらない」という考えは当然理解できるのだが、1ヶ月程度では患部の強度はさほど変わらないという意見もある。
そもそも井上尚弥という誰もが望む対戦相手をあえて避けて、ノンタイトル戦の方を先に選択するという判断をグッドマン陣営が下していなければ、9月の時点で井上尚弥はドヘニーではなくグッドマンと試合を行っていたはずである。
これが結果的に2度の延期を招くことに繋がったということを考えると、やはり“挑戦者”のグッドマン陣営はそれに相応しいだけの「運」と「覚悟」を持っていなかったということになるのではないかと思う。
また今回の怪我から受け取れるものとして、「スパーリングでカットするほどのパンチをもらってしまうような状況で井上の相手を出来るのか」という疑問と、「バランスの取れた攻防が強みのグッドマンがカットを負うだけのパンチをもらってしまうんだ」という意外性がある。
60〜70%ぐらいの力で攻め続ける手数の多さと、攻撃の距離を見切る目とIQ、そしてそれに伴うディフェンス能力の高さを駆使して試合を支配していくグッドマンが、練習中にもらったパンチでカットしてしまうとなると、井上のパンチをもらってしまった時のダメージはどうなるのか。
恐らくグッドマンはキャリアの中で経験したことのないような攻撃力を目の当たりにすることになると思うので、よっぽど上手く戦って井上を型に嵌めるような状況を作ることが出来ない限り、耐久面でも苦労することになってしまうだろうと思われる。
そんな状況下でグッドマンは“モンスター”と12Rを共有していかなくてはならない。
グッドマンが井上をどこまで攻略できるかによるけれど、それは間違いなく大変な作業となってくるだろう。
井上尚弥は絶対のない勝負の世界で常に有利を予想されながら、その期待に応え続けきた日本の歴史に名を残す世界トップクラスのボクサーだ。
そんな井上も他のボクサーと同様に、今回のような延期などのアクシデントを含めて何が起こるか分からない不確定要素を常に抱えている。
しかしそれを「物ともしない姿勢」で対応することが出来るのが王者であり、井上尚弥というボクサーなのである。
これまでも井上は王者の、そして強者のメンタリティをその都度見せてきたが、今回もその力強さは変わらない。
いや、むしろ過去の自分を越えようと常に前進している井上はそれ以上のものを見せていると言っていいのかもしれない。
ここから更に準備期間を一カ月もくれるのは自分にとってはプラスでしかないと思う。
— 井上尚弥 Naoya Inoue (@naoyainoue_410) December 14, 2024
最高の準備をして最高の試合をお見せします。 pic.twitter.com/w8owZs4PsM
井上尚弥は延期となったこの1ヶ月という期間でさらに準備を整え、より強い状態を作り出す方向へとシフトしている。
直前で計画が乱れたことで調整のリズムも大幅に狂ってしまったことは間違いないだろうと思うが、素早い切り替えで既にマイナスをプラスに昇華させていく姿勢が整えられている。
やはり多くの戦いを乗り越え、勝ち続けてきた王者は伊達ではない。
この幹の太さは今回のタイトルマッチでも大いに活かされることになるだろう。
この延期で生まれた時間を使って井上尚弥がどこまで仕上げていくことが出来るのか、武居由樹が怪我で離脱してしまったことは残念だが、1ヶ月延期されたことで増えた楽しみもあるので、改めて1月24日の戦いに期待を向けながらその時を待ちたいと思う。