💿『死と乙女』シューベルト　『狩』モーツァルト

演奏：ジュリアード弦楽四重奏団
録音：1981年　1985年⭐︎

【曲目】
１.『弦楽四重奏曲　ニ短調　op.14《死と乙女》』シューベルト(1797〜1828)
２.『弦楽四重奏曲　変ロ長調K.458　op.17《狩》』モーツァルト(1756〜1791)⭐︎

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はじめに

シューベルトとモーツァルトといえば古典派～ロマン派初期を代表するにとどまらず、クラシック界を代表する二人といっても過言ではありません。ここでは二人の弦楽四重奏曲の代表格にふさわしい二曲がコンピレーションされています。

シューベルト『死と乙女』

まず一曲目の『死と乙女』は1824年に書かれた作品で、彼が作った弦楽四重奏曲は完成しているもので15曲といわれていますが、その中で14番目の作品となっています。

また、シューベルトは歌曲王といわれるほど歌曲を多く残した人物で、31年という短い生涯の中でなんと600もの歌曲を世に生み出したといいます。

歌曲とは独唱声楽曲（または重唱声楽曲）のことをいい、わかりやすくいえば歌詞がついた曲、つまり現代のポップスのようなイメージです。教科書にも載っている『魔王』や『野ばら』などが有名です。

そんな彼の書いた弦楽四重奏曲『死と乙女』ですが、その第二楽章において過去に彼の作った歌曲のモチーフがそのまま主題として使われています。
その歌曲のタイトルが『死と乙女』。ここからこの弦楽四重奏曲もそう呼ばれるようになりました。詩はマティアス・クラウディウス（詩人）によるものです。

死神「ねえ、お嬢ちゃん、ちょっとお茶しない？」
乙女「いいですよ」
死神「（まじかよ…こんなあっさりと…今日はツイてるぞ）よしじゃあ、このまえ駅前に新しくできたカフェにでも行こう。ごちそうするよ」
乙女「わかりました。その前にこの壺を買っていただけますか」

作曲した当時、彼は梅毒にかかっており、荒療治も相まって心身ともに疲弊した状態でした。そんな自分自身をそのまま五線譜の上に投影したのかもしれません。全体を通して短調で陰鬱な雰囲気が漂っています。しかし、そこまで重い印象はありません。それはシューベルトが持つある種の疾走感に起因しているのかもしれません。

シューベルト《死と乙女》　演奏：ジュリアード弦楽四重奏団

モーツァルト『狩』

続いてモーツァルトの『狩』になります。
現在のオーストリアの都市であるザルツブルクで生を受けたモーツァルトは幼少期からその音楽の才能が開花し、5才でピアノ曲を作曲、9才で交響曲を完成させました。早熟が伸び悩むのは世の理ではありますが、彼にその定説は通じませんでした。35歳までの短い生涯の中で彼は数多の傑作を世に送り出し続けました。長い音楽史の中でもとりわけ天才との呼び声が高い作曲家です。

父「うっわ、神童。まじ神童」
モ「やめてよ、父さん」
父「ピアノの腕もピカイチ、おまけに作曲もできて」
モ「大げさなんだから。あ、父さん、これ。一応確認してみて」
父「なんだこれは」
モ「フェルマーの最終定理」

『狩』は1784年に書かれました。モーツァルトの弦楽四重奏曲第14番～19番は敬愛していたハイドンに献呈したことから、「ハイドンセット」とも呼ばれています。その中でもとりわけ人気があり、演奏回数も多いのがこの17番『狩』です。出だしは狩の始まりを告げる角笛のごとく軽快で、サウンドオブミュージックのジャケットが映像として浮かんできます。また第三楽章は≪アダージョ≫でそれまでの雰囲気とは異なり、物静かでいて抒情的な旋律に変わります。雨が降りそうで降らない午後の日を彷彿とさせます。そして最後の章ではふたたび晴れ間が差してきて、若い男女が水たまりを弾きながらカフェ通りを闊歩している、そんな情景が思い起こされます。そんな展開、そんな情景、そんな手触りがこの作品にはあります。

モーツァルト《狩》　演奏：ジュリアード弦楽四重奏団

まとめ

これまで紹介した二曲、テイストは違えど、人々に何かを喚起させるには十分な力を秘めています。それぞれの弦楽器がきちんと役目を果たし、定められたフィナーレに向かって一枚岩になり突き進んでいきます。音の強弱に伸び方、約束された重音にしとやかな休符。そのすべてが適材適所に散りばめられているといってもいいでしょう。一度、瞼を閉じて弦楽器が奏でる世界に足を踏み入れ、そこから羽根を伸ばして自分だけの世界を構築してみてはいかがでしょうか。