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書評 淡谷のり子『生まれ変わったらパリジェンヌになりたい』
店頭でひとめぼれしたアイスグリーンの表紙には、ゴージャスな黒いドレスを着てステージに立つ歌い手が存在感を持って描かれ、花道にはフューシャピンクのバラ、香水瓶、ルージュ、鏡、宝石といった美しいものがちりばめられている。往年のマレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボを思わせるクラシカルな女優のたたずまいだ。
そこへきてタイトルが『生まれ変わったらパリジェンヌになりたい』。編者は早川茉莉氏。愛読するちくま文庫の森茉莉シリーズや矢川澄子のエッセイなど、独自の美意識と矜持のある女性を手がけたら類を見ない編者だ。これは買うしかない。
淡谷のり子さんの書いたものを読むのは初めてだが、一行目からロックオンされてしまった。
「私は誰よりも長い間歌を歌い続けてきました。死ぬまで引退する気もありませんから、これからも命ある限り歌い続けていくにちがいありません。」
かっこいい、なんてかっこいいの!
言葉が美しく、読んですっと胸に入ってくる。きっぱりとした姿勢がすがすがしく、読んでいて背筋が伸びる。淡谷のり子さんは強くて優しい人だったのだなあと実感する。
本の構成は5章からなり、生き方について、おしゃれについて、恋愛・結婚について、生涯現役でいる方法、そして著者からの遺言の順に並んでいる。
それぞれの文章につけられたタイトルがまた、なんとも魅力的である。
・幸福はそれを望む人の心のなかにある
・ピンクの似合う年になりました
・美しい花を咲かせるには手入れが必要
・勉強は一生もの、これでいいと思ったら行き止まり
などなど。
最先端を行く徹底したおしゃれのエピソードや、戦時中「ドレスもお化粧も私の戦闘服」と、もんぺを断固拒否したエピソードの見事さ。本人は「青森人のじょっぱり(ええかっこしい)人生」と言うが、なかなかできることではない。
淡谷のり子さんは1999年に92歳で亡くなった。
それから24年後の、2023年後半期のNHK朝ドラ「ブギウギ」には、淡谷のり子をモデルとした人物・茨田リツ子が出てくる。
青森に生まれたのは間違いだった、生まれ変わったらパリジェンヌになりたいと願った淡谷さんは、今ごろパリの空の下を闊歩しているだろうか。
彼女はどの時代に生まれてどこにいても、パリジェンヌのように見事でかっこよかったと思う。
https://www.nhk.or.jp/aomori/lreport/article/000/60/