映画レビュー 40作目 コミック雑誌なんかいらない
毎週発売される週刊誌に、芸能人のプライベートの
様子が掲載される。
個人的に、プライベートは絶対に載せてはいけない
し、1日でも早く掲載を止めて欲しいと願うばかり
だが、今回レビューするコミック雑誌なんかいらないを見て、昔の芸能人のプライバシーはもっと
なかったんだという事に気がついた。
内田裕也演じるキナメリは、どんな手を使って、
相手から嫌がられても、松田聖子結婚、ロス疑惑
など1980年代を象徴する出来事に対して、スクープを報じようとする記者である。
その記者に対しての芸能人の対応、キナメリの現場外の素顔、彼の変わってゆく心情を描いたのが本作
の物語である。
この作品を見て、印象に残った点は主に8つある。
1つ目は、オープニングの演出である。
この作品は、物語の重要なアイテムとなるマイクのアップ画面から始まる。
最初、私は、画面に映るマイクがわからず、なんだろうと注目しなければ行けなかった。
マイクだとわかったら、タモリのナレーションを
バックに、内田裕也の散髪が見られる。
このタモリのナレーションが最高である。
今では、好感度が高い彼だが、1980年代は、1部の方からは嫌われ芸人にあがる理由が非常にわかり、
この作品は、一応、フィクションですよと思わせようとする語りだった。(正直内容を見ていると、
フィクションだとは思えないシーンも多いのだが)
これらの冒頭は、合計しても数分も満たないだろう。
しかし、非常に、心を奪われるシーンであった。
冒頭から、心を奪われた映画は、久しぶりであった
2つ目は、驚くべき出来事がしっかりと映画で表現
されている事だ。
ロス疑惑、松田聖子結婚、豊田商事事件、
日航ジャンボ機墜落事故、目まぐるしい事件しか
なかったこの時代、これらをしっかりと中には
当事者本人を含めて映画では表現している。
この点がまた、非常にワクワクして、驚いて、心を痛めた。
こんなに、今、一つの映画で正確に、表現するだろうか?
そして、本人達が出演した事は、彼への尊敬の気持ちと、当時のレポーター業界に対してふざけるなと言った思いが強かったのが読み取れる。
3つ目は、内田裕也の演技である。
彼の後年のインタビューから、ロッケンロールなど
英語になると、妙に、発音が訛る習性があるのを
みなさんはご存知であろう。
この映画でも、キャメラマンなど英単語になると
訛っている。
この点から、彼の演技力に気になってしまった。
ただ、彼の映画だから良くて、むしろ演技がうますぎたら、それはそれでこの映画の良さが伝わらないかもしれないので、このままでいいのだと思う。
4つ目は、彼のプロデュース力である。
さっきも書いたように、私のイメージは、やたらと
ロッケンロールとひたすら訛った英語を言っている
おじいさんにしか思えなかった。
しかし、この映画を見て、彼は本当にロッケンロールな人間だった事がわかった。
こんなに、真正面に、当時の事件に向き合い、
映像化する人はなかなかいないだろう。
彼は、他にも、数本映画をプロデュースしている
みたいなので、他の作品も見てみたいなと思う。
そして、晩年までも、ロックな映画を作り続けて
欲しかったと心から思う。
5つ目は、内田裕也に対して、ロックをわかってない
と言ったり、松田聖子(偽物)がお嫁サンバを歌っていたり、郷ひろみの前で片岡鶴太郎が郷ひろみの哀愁
のカサブランカを歌っていたりなどの小ネタが
ふんだんに入っている点である。
この描写が単なる、抗議映画ではなく、一般の方
がみても笑える、大衆映画にしているんだなと
思った。
6つ目は、芸能リポーターの私生活である。
本作では、キナメリの私生活のシーンがふんだんに表現されている。
芸能リポーターは、お金持ちで裕福な生活を送っているのだろうと私は視聴する前は思っていた。
しかし本作は、私の考えとは、正反対に、テレビの
所有数は多いものの、私生活では、物静かで、比較的地味な生活を送っている事がわかった。
これを象徴するシーンとして、若者がキナメリに
会って、キナメリのようになりたいと伝えるシーンがある。
しかし、彼は無言でその場を立ち去ってしまう。
こんな仕事をするな、憧れるなと無言だが言って
いるように思えた。
7つ目は、視聴率のことしか考えていないプロデューサーである。
キナメリは、作品の後半にかけて、気持ちが変化
していき、芸能出来事だけでなく、詐欺といった
もっと重要な事を伝えた方がいいとプロデューサーに提案する。
しかしながら、断られ、結局、事件が起こった後、
キナメリをレポーターに任命する点から、昔も今
も、視聴率第一で考えているのは変わらないんだなと思った。
8つ目は、タイトルのコミック雑誌なんかいらない
である。
元々は、頭脳警察が発表した曲を内田裕也が、
カバー、映画のタイトルにした。
予告編では、ふんだんに同曲が使われる為、
てっきり本編でも流れるものだと思っていたら
なんと、エンドロール後に、黒い画面になって
流れるのみなのである。
これには、恐らく、彼の意図があるのであろう。
この映画を見ていると、正直、彼の役どころは、
テレビの芸能リポーターなので、コミック雑誌なんかいらないではなく、ワイドショーなんかいらない
でもいいのかなとも思ったが、あえて、コミック
雑誌なんかいらないがいいのだと個人的に思う。
また、私は、本作を映画館で視聴したのだが、9割
方のお客さんは、映画館が退館bgm として流して
いるものだとして、席を立ってしまっていた。
非常に勿体無い。
もし、映画館で見る場合は、黒画面で、タイトル
曲が、流れ終わるまでがこの映画なので、ぜひ席を
立たないで欲しい。
星は4つ。
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