イェール大学集中講義 思考の穴 著 アン・ウーキョン
今回ご紹介したいのがこちら。
表紙にある通り,わかっちゃいるものの間違えてしまう,「思考の穴」について,さまざまな事例を使って紹介してくれています。
今回触れたいのは「流暢性」というものです。
流暢性効果とは?
いろいろな場面で見られるものですが,「何度か見たり聞いたりしたものはなぜかわかったような気になること。」や「キャッチーな言語には自然と惹かれてしまう。」というような、頭の中で簡単に処理できてしまったものがなんだか自分もできるというような気になってしまう効果のことをさします。
自分で実際にしたことのないことでも,見聞きしているうちになんだか自分もできるような気になるけれども,実際やったらできなかったというようなこともこれが一因となっています。
子どもたちは「できる!」と元気に返事をしたものの,実際にやってみたらあれれ…みたいな場面は多々ありますよね。
学校のどんな場面に潜んでいる?
子どもたちはそんな得体のしれない自信とともに大いにチャレンジしてもらって構わないのですが,問題は大人です。
例えば,教育に関するトピック(一斉指導や自由進度,GIGASchool構想,生徒指導提要)などなど,掘れば掘るだけ難解なものがたくさんあるわけですが,耳にすること,研修することはよくあるのではないでしょうか?
自治体ごとに特徴はあるかと思いますが,例えばGIGA関連の研修が多い場合,実際に活用しなくとも,GIGA関連の知識だけは持っているような感じがしてしまう。ということが,学校に潜む流暢性の罠だと感じています。
GIGA関連を例にして言えば,実際に活用しないことには,良しあしなんてわからないはずなのに,「子どもに使わせると使用に夢中で交流が失われる。」「健康被害がある。」「授業に集中できずに遊んでしまう。」「環境の整備が甘く,思うように使えない。」などといったネガティブな情報がスラスラと頭の中をめぐることで,活用する前から,「GIGA端末は使えたらいいけど,デメリットもあるから使わなくてもいいか。」みたいな理論に至ってしまうといったことがあげられます。
流暢に,見聞きした都合のいい情報が頭をめぐることで,しらずのうちにあまりよくない意思決定にたどり着いてしまうのですね。
実際問題,上記したような課題はもちろん活用する中で現れるものですが,それを乗り越えたうえで手にする力が大切なのだということがすっかり抜け落ちています。
指導技術のあるなしで,問題を乗り越えられるか否かは変わってきますが,それはGIGA端末を使うこと自体の問題ではなく,指導力の問題です。できればGIGA関連のことを論ずるより先に,指導の在り方を論ずることで解決できるものも出てくるはずです。
どうしましょう?
じゃあどうしましょうか。という話なのですが,流暢性は人間に備えられた立派な機能の一つなので,なくすことはできません。※詳しくは本書をご覧ください!
かといってとらわれたままではいけません。
じゃあ,流暢性の存在を知ったからもう気を付けられる!というものでもありません。
本書の内容をもとに私たち,学校に関わる者ができそうなことを2つ挙げます。
①説明する
人に説明することで,案外わかっていなかったことに気づくことができます。ここでは,自分の知識をただ出すだけでは,流暢性の落とし穴から抜け出すことはできません。
相手から質問してもらったり,感想をもらったりすることで,落とし穴に気づける場合があります。
私はこうして書きながら説明しているわけですが,レスポンスがないので,ひとりではただ流暢性が加速するだけで,落とし穴には気づけていないわけです。気を付けないと…
ですので,身近なところに気兼ねなく話せる,そんな存在がいるといいですよね。
過去の教訓をもとに
どんなに気を付けても,人間に備わった大切な機能なので,落とし穴をなくすことはできません。
ですが,落とし穴に落ちた経験は自分のものになります。
あの時あんな失敗したな。こんな思い込みがよくなかったな。と,過去の教訓をもとに,現在置かれている状況と照らし合わせてみると,もしかしたら落とし穴に落ちかけている自分に気づけるかもしれません。
せっかく落ちたのなら,ただで抜け出すのはもったいないですよね。
おそらく,どの学校でも流暢性が生むズレみたいのものが厄介な方向で働いていることがあるかと思います。
ですが,子どもを見ると,「なんかできる気になって挑戦してみたら,全然できなくて,でも新しい発見があった!」なんて場面はとても微笑ましいですよね。
流暢性そのものが悪いのではなく,向き合い方,扱い方をちょっと気を付けただけで,何かぎくしゃくしたものが円滑に進むかもしれませんね。
今日もお読みいただきありがとうございました。
誰かの「よりどころ」になりますように。
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