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異形者達の備忘録-35
ヤドカリ
秋の夕方、駅前通りの銀杏並木が夕日に映えて、すっかり黄金色だ。
私は今月のお小遣いを手に、商店街の本屋に居た。レジに並んでいると、奥から知った顔が出て来た。背後から「あら、隆二(りゅうじ)さんお出かけ?すぐに晩御飯よ!」「すいません、チョットそこまで」そう言ってすれ違った。「こんにちは」と声をかけた。すると彼は、一瞬驚いた顔を向けて。ペコっと頭を下げて出て行った。
帰宅後、京子に電
ショート シルバーニャ・ファミリー
私は70歳のお婆さんです。長い教員生活で、お付き合いした人も居ましたが、結局定年まで勤めてしまい。退職後も資格を生かして働いていたのです。親の介護も終わり、父の愛犬だった秋田犬のタロを連れて、将来ドッグランに出来そうな広い敷地の、この家を買いました。家は二階建ての小さな物ですが、一人者にはこれで十分。
ですが、問題はありました。敷地内に建つ古い木造のアパート。見学時にはてっきり廃墟だと思った。不
ラスト・ダンスその5 最終章
パピヨン
卒業式の朝、俺は父、母、妹に別れを告げた、玄関先で深く頭を下げ、カバン一つリュック一つ、振り返らずに学校へ向かった。今夜からは寮に住む。1人部屋なのは嬉しい、アルバイト探しは急務だ。物理的にボッチだから、絶対金が頼りとなる。ギッと、眉を上げるが、心中は、今でも、【大丈夫かオレ!】で一杯だ。本当は、何もかもが怖い!でも後ろの道は、自分で閉じて来たのだ。
学校では、校長・教頭・担任の先生
ラスト・ダンスその4
分かれ道
田中が空手の大会に出場する。その日、俺は応援には行かない、全国一斉模擬試験の日でもあったから、ここでトップ10位以内に入れば、奨学金が受けられるのだ。そのことは事前に話し合い、エールを送り合ったのだが、当時の朝になって、不安に押し潰されそうになっていた。呼吸がし辛い、指が震える、そうだ!田中だ、ヨシオを見てから会場に行こう、一目だけ!後ろ姿だって良い!
俺は家を飛び出した。朝練場に空
ラスト・ダンスその3
修学旅行-告白
学年が変わって、俺たちは、ヨシオ・ツヨシと呼び合っている。ヨシオは、黒帯を取得し、空手部の部長になった。在学中に県大会優勝を目指して連日空手三昧だ。いじめが無くなった俺は、奨学金獲得に向けてそれなりに頑張っていた。行動に接点がなくなった俺達だったが、昼食時になるとヨシオが、売店のパンを入れた袋を投げてくる。「ツヨシー、餌だよー」「オー!サンキュなー」と受け取る。多少の期待感で中を
ラスト・ダンスその2
団扇(うちわ)
夏休み前、中学校での恒例行事がある。走っても徒歩でも、峠を二つ超えて連山のお守りを貰ってくると言うもの、自転車NGだった。
当初、俺は不参加にしていたが、田中が「先にゴールして、引き返してくるから、それまでゆ〜っくり、歩いて来いよ」と言うので参加を決めた。一応家族にも話したが、何のリアクションも無かった。
前日に冷凍庫で凍らせたペットボトルと、チョコレートを持って、大勢の中、
ラスト・ダンスその1
あらすじ
寄らば大樹の陰で、意識した人、寄ってみたら、その大樹に心惹かれてしまう、一緒に居られれば良い筈なのに、クルクルと踊る相手は別の人、それで良い筈なのに翻弄される心、やがて来たラストダンスの時間、もうフロアには誰もいないのに、音楽は鳴り止まない、そんな恋の物語。
決意
俺は中学1年生の時に家出をした。決して帰らないと覚悟を決めての家出だった。小学校から続く陰湿ないじめが原因だ。中学生にな