とび

小説を書いています、3タイプ構成です。【短編集】【長編集】と【異形者達の備忘録】これ等…

とび

小説を書いています、3タイプ構成です。【短編集】【長編集】と【異形者達の備忘録】これ等を、マガジン収録したい(進行中)。 2024の恋愛小説部門に、ラストダンスを応募しました。一世一代の、恋の話!なのだよ、読んでみて下さい。

最近の記事

連載小説 サエ子 第1章

川釣り 俺の唯一の趣味が釣りである。最近川釣りにハマってしまって、休みの前日は夕方から寝て、夜中に支度を整えて車を出すのだ。夜の高速を飛ばし、お気に入りのラーメン屋で夕食を取る。そして、真っ暗な山道を駆け上り、夜明けとともに、上流の駐車場に到着、お気に入りのポイントまでは徒歩移動だ。 その日、腹ペコで高速を走っていると、携帯が鳴った。時間が時間だ。イヤな予感しかしない、俺は路肩に車を止め、すぐに電話に出た。 電話の相手は同僚のサエ子であった。「もしもし、武史くん、良かっ

    • ショート アトリエ

      近所にアトリエがある。懐かしくて覗いてみた。三階建てのビルで、クロッキー・デッサン教室の張り紙がある。教室と言うからには先生が居る。いかにも美術の先生といった風貌の老人が教えている。教室には中学生からシニアまで居る、時節柄か、圧倒的にシニアが多い、ゆっくり見ていたら、絵の具まみれの白衣を着た青年が、「描いてみませんか? やってみると面白いですよ」と声をかけて来た。「ありがとうございます。学生時代を思い出し、懐かしくて、お邪魔しているだけです。」と言うと、「そうですか、それなら

      • 異形者達の備忘録-37 

        卒業 高校3年生になると受験が目前に迫り、自然とクラブ活動からは遠ざかる。冬休みも過ぎ、ワンゲル部も2年生の新部長を中心に活動している。3年生が、頻々に顔出しすると、返って邪魔になろうというものだ。暇を持て余した私と京子は、放課後、いつも駅前の公園で夕方まで過ごしている。受験勉強? 勿論やってる。志望校に受かる自信だってある。ただ私たちの進む方向は全く違った。京子は外科医、私は自然科学者だ。これらを目指すきっかけとなったのは、ワンゲル部で度々行った災害ボランティアにあった。

        • ショート 思い

          俺には歳の離れた弟がいる。母親違いだ。実母は俺を産んですぐ他界し、父子家庭で育った。俺も大学からは、家を出て、奨学金とアルバイトで、一応独立をした。その頃、親父はギリギリ40代後半で、出来れば、親父にも幸せな出会いが有って欲しいと思っていた。 大学2年生の春頃、親父から電話があり、曰く、「急な事ですまんが、再婚する事にした。まぁ、腹に子供が居てな、結婚式はしないよ」と言うのだ。腰を抜かしたよ、でも、嬉しかった。相手の方は38歳、親父には、若い嫁さんではあるが、高齢出産でもあ

        連載小説 サエ子 第1章

          ショート 恐怖

          うっかり帰りが遅くなってしまった。金欠病の俺は、ボロアパートから追い出され、やっと見つけたボロボロアパートに引っ越して1ヶ月経った。仕事もあるし、部屋も確保出来たで、申し分ないのだが、仕事先からアパートまで1時間半ぐらい、これだって、全く問題ないのだ。ただ一つ問題は道だ。 最寄駅から徒歩15分!この道が怖いのだ。田舎の無人駅で、駅から線路に沿って細い道があるのみ、片側は線路側で緑色の高い金網が続く、反対側は斜面が競り上がった様な階段状の墓地だ。墓地は古く、鬱蒼とした笹に覆わ

          ショート 恐怖

          異形者達の備忘録36

          メタバースと明晰夢 私は女子高生のユリ、同級生の京子と、メタバース体験教室に1週間行って来た。仮想空間は面白かったし、自分をアバターとして登場させるのも面白かった。その空間でのゲームも目新しくて、面白かった。でも、次回続きをやろうと言う気にはならない、当初22名居た受講生も私達2人のみになってしまった。 夏休みだし、両親は旅行中だし、京子は私の家に連泊している。 夏休みの研究課題をメタバース体験にしていたのに、集めた資料やら、パンフレットに埋もれて、頭を抱えた。ゲームを

          異形者達の備忘録36

          ショート 三男坊

          俺の家は大きな農家で、長男も次男も農大出て、農業を継いでる。親父は、離村する農家が出る度に、その農地を買い増して行った。俺が未だ中坊だったころは、村の殆どの土地が実家の所有地だったと思う。俺は親父の兄弟の、末っ子の一人息子だった。震災で家族も家も無くして、学校に居た俺1人が残されてしまった。 そんな時、飛んで来た親父は、すぐ俺を戸籍に入れ、俺は三男坊となった。だから次男とも親子ほどの年齢差があるのだ。 家族全員がセッセと農業に勤しむ中、何不自由なく育てられ、俺は大好きなI

          ショート 三男坊

          ショート 黒曜石のナイフ

          フロアは、パーテーションで仕切られ総務部と経理、営業に分かれていた、20人程社員が居て、忙しいながら働き易い職場である。 6月の半ば、中途入社の社員が紹介された。安田美津子と言う名前で、今時珍しく化粧っ気がなく、小柄で大人しそうだったのだが、初日からやらかした。書類を持って立ち上がった社員と、後ろを通りかかった彼女がぶつかりそうになった。瞬間!【ギャーー】耳を劈く様な悲鳴をあげた。超大音量である。動きが止まった職場「あんた、どっか悪いんじゃないの?」と目を丸くする社員に、彼

          ショート 黒曜石のナイフ

          異形者達の備忘録-35

          ヤドカリ 秋の夕方、駅前通りの銀杏並木が夕日に映えて、すっかり黄金色だ。 私は今月のお小遣いを手に、商店街の本屋に居た。レジに並んでいると、奥から知った顔が出て来た。背後から「あら、隆二(りゅうじ)さんお出かけ?すぐに晩御飯よ!」「すいません、チョットそこまで」そう言ってすれ違った。「こんにちは」と声をかけた。すると彼は、一瞬驚いた顔を向けて。ペコっと頭を下げて出て行った。 帰宅後、京子に電話した。「もしもし京子! さっき駅前の本屋さんで、隆二さんに会ったよ」と言うと、

          異形者達の備忘録-35

          ショート シルバーニャ・ファミリー

          私は70歳のお婆さんです。長い教員生活で、お付き合いした人も居ましたが、結局定年まで勤めてしまい。退職後も資格を生かして働いていたのです。親の介護も終わり、父の愛犬だった秋田犬のタロを連れて、将来ドッグランに出来そうな広い敷地の、この家を買いました。家は二階建ての小さな物ですが、一人者にはこれで十分。 ですが、問題はありました。敷地内に建つ古い木造のアパート。見学時にはてっきり廃墟だと思った。不動産会社も、更地にする約束をしてくれた。ところが、私が引っ越しをした段階で、まだ

          ショート シルバーニャ・ファミリー

          ラスト・ダンスその5 最終章

          パピヨン 卒業式の朝、俺は父、母、妹に別れを告げた、玄関先で深く頭を下げ、カバン一つリュック一つ、振り返らずに学校へ向かった。今夜からは寮に住む。1人部屋なのは嬉しい、アルバイト探しは急務だ。物理的にボッチだから、絶対金が頼りとなる。ギッと、眉を上げるが、心中は、今でも、【大丈夫かオレ!】で一杯だ。本当は、何もかもが怖い!でも後ろの道は、自分で閉じて来たのだ。 学校では、校長・教頭・担任の先生が待っていた。校長先生が、「話を聞いて驚いたよ、君は強いなあ、ツヨシって名前通り

          ラスト・ダンスその5 最終章

          ラスト・ダンスその4

          分かれ道 田中が空手の大会に出場する。その日、俺は応援には行かない、全国一斉模擬試験の日でもあったから、ここでトップ10位以内に入れば、奨学金が受けられるのだ。そのことは事前に話し合い、エールを送り合ったのだが、当時の朝になって、不安に押し潰されそうになっていた。呼吸がし辛い、指が震える、そうだ!田中だ、ヨシオを見てから会場に行こう、一目だけ!後ろ姿だって良い! 俺は家を飛び出した。朝練場に空手部の送迎バスが止まっていた。部員はこれから乗り込む様だ。よかった、間に合った。

          ラスト・ダンスその4

          ラスト・ダンスその3

          修学旅行-告白 学年が変わって、俺たちは、ヨシオ・ツヨシと呼び合っている。ヨシオは、黒帯を取得し、空手部の部長になった。在学中に県大会優勝を目指して連日空手三昧だ。いじめが無くなった俺は、奨学金獲得に向けてそれなりに頑張っていた。行動に接点がなくなった俺達だったが、昼食時になるとヨシオが、売店のパンを入れた袋を投げてくる。「ツヨシー、餌だよー」「オー!サンキュなー」と受け取る。多少の期待感で中を見る。数はいつも5個、多いよ!と言っていたが、近頃はペロッと無くなる不思議! 定

          ラスト・ダンスその3

          ラスト・ダンスその2

          団扇(うちわ) 夏休み前、中学校での恒例行事がある。走っても徒歩でも、峠を二つ超えて連山のお守りを貰ってくると言うもの、自転車NGだった。 当初、俺は不参加にしていたが、田中が「先にゴールして、引き返してくるから、それまでゆ〜っくり、歩いて来いよ」と言うので参加を決めた。一応家族にも話したが、何のリアクションも無かった。 前日に冷凍庫で凍らせたペットボトルと、チョコレートを持って、大勢の中、スタート地点に居た。オドオドしていると、スタート直前「サワマツー、すぐに引き返す

          ラスト・ダンスその2

          ラスト・ダンスその1

          あらすじ 寄らば大樹の陰で、意識した人、寄ってみたら、その大樹に心惹かれてしまう、一緒に居られれば良い筈なのに、クルクルと踊る相手は別の人、それで良い筈なのに翻弄される心、やがて来たラストダンスの時間、もうフロアには誰もいないのに、音楽は鳴り止まない、そんな恋の物語。 決意 俺は中学1年生の時に家出をした。決して帰らないと覚悟を決めての家出だった。小学校から続く陰湿ないじめが原因だ。中学生になってエスカレートした。俺は別区角の中学校へ行きたいと両親に頼んでみたが、聞いても

          ラスト・ダンスその1

          ショート 相談相手

          洋子は、買い物が入ったレジ袋を力任せにトートバックに押し込んだ。ちくわと魚肉ソーセージ、長ネギで、今日の買い物は終わり、パートへ行って、先輩のレッスンへ行って、劇団に顔を出して、保育園にエリを迎えに来た。はぁ〜、毎日、この繰り返し、本当に、絶えられなくなっていた。保育士の話を適当に聞き流し、エリの手を引いて帰宅する。 夕飯時、いつもの様に夫は言う、豪華にしろとは言わないが、これほど質素にする必要があるのかと、妻は夫に家計簿を差し出した。それを横に置いて、3人は無言で食事を進

          ショート 相談相手