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春に思う

人には、一つや二つ、桜にまつわる忘れ得ぬ景色というものがあるのではないだろうか。

思い起こせば桜という花は、時にはひっそりと、時には豪華に、人生の節目の折々に、映り込んでいたように思う。

1年の区切りを春に定められた日本人にとって、桜は出会いと別れの象徴でもある。

優しい陽の光の中で一面を桜色に染めて咲く花の景色を見ていると、この淡く柔らかな季節が区切りの季節で良かったなと思う。

私にとって、最初の入学式は赤いランドセルを背負ってくぐった門から校庭まで続く桜のトンネルの記憶。出迎えてくれた二宮金次郎に花の影が落ちていた。

私にとって、最後の卒業式は振袖姿の記憶。
学舎を囲む屏に沿い、少し早い開花を迎えた花が咲き誇っていた。希望と、希望と、希望に満ちた春であった。

今年も、たくさんの若者たちが京都を巣立ち、そしてまた京都にやってくる。

私もまた、この街で、これからも忘れられない景色を、ひとつ、またひとつ増やしながら歳を重ねていく。

人生という名の旅を終える時、記憶はどこへ行くのだろう。満開の花の下、ふと、そんな思いが心をよぎる。

はらはらと、一斉に散る、そしてそのあとは風に吹かれて何も残さない。
旅のフィナーレはそういう散り方をしたいと願う。



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