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マジシャンは紳士であるべき的な考え方の向こう側。

 古い壁の向こうには何があるのか。
ある人が壁を壊した。
僕はその破片を握り締めて、壁の向こうへ歩き出す。

 僕が手品をやり始めの頃は、「マジシャンは紳士でなければいけない」という考え方が基本でした。
基本的な考えで言えば“パーム”もそうです。
パームをしてる時もしてない時も同じでないといけないと言う考え方である。

 よって、パームして腕を下げている時と同じ様に、パームしてない時でも、同じ様に腕を下げてないといけない。
そういった姿勢はまるで紳士の振る舞い。
 “常に紳士でないといけない”という考え方の裏には、こういった背景があるからなのかも知れない。そんな事を思っていました。
 デックを持つ時も、両手にパームしてる時と同じ様に持つ。
シャッフルする時も同じである。
なので常に動きは硬くなります。
その硬い動きを紛らわす為に“紳士的”を装う必要があったのではないかと考えてしまいます。

 僕の中でその考えを打ち破ったのがファン・タマリッツである。

 ジャケットも来てない普通のシャツにベスト、下はヨレっとしたジーパン。
両手を広げて陽気に演じる姿は紳士とはかけ離れた様であった。

 彼はデックを取り出し、お客さんに混ぜさせる。
その間に他のお客さんに好きなカードを言ってもらう。
デックを返してもらい表を見るが、「同じカードが並んでる」と再び他のお客さんにデックを渡して混ぜてもらう。その間も両手は広げたままである。
デックを返してもらい、そのまま他のお客さんに渡して混ぜてもらう。
デックを返してもらい、さっき言ってもらったカードを表向けて探すがデックにはありません。
手を広げて何も無いのを見せ、ゆっくりズボンのポケットに手を入れて引き出すと、1枚のカードが出てくる。
そのカードが言ってもらったカードである。

 どこがでお客さんのカードを見付けてポケットに入れたと思うのですが、全く気が付きませんでした。

 “常に紳士的で”とか“常に同じ動きで”とかもなく、なおかつ完全に引っ掛かりました。
技法の匂いすら感じませんでした。

 それまでにあった“マジシャンは紳士でなければならない”と言う考え方が完全に壊れた出来事でした。

 かと言って昔の考え方が間違ってた訳ではありません。
昔の考え方が土台にあるから成り立っているのです。

 地面が不安定な所に家を建ててもすぐに倒れてしまいます。
土台をしっかり固めてから家を建てないといけません。
何事も基礎が大事って事ですね。


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