コンブのコン君
人にはどうしても苦手なものがある。
特に生理的に苦手なものは、その苦手を克服出来ない、生まれつきのもの、もはや前世からの因縁ではないかと思うくらいダメなものが多い気がする。
妹はなぜか、”クモ”(蜘蛛)が異常に苦手で、見つけると鳥肌を立てて酷い形相になる。笑
母は、毛虫や芋虫が同じようにダメ。
もう気が狂ったように逃げ惑う。
庭で見つけようものなら大変なことになるので、いつも私がこっそり塵取りに入れて、道を渡って向かいの学校のフェンス辺りに投げ込む。(内緒ね)
ところが不思議なことに、母はクモは全く平気で、小さなクモは手に取って外に逃がすことが出来るくらい。
私はどちらも嫌いだけれど、あの二人ほどではないから、塵取りだとか、新聞紙の先とか、何かに乗せて外に出すくらいは出来る。
先日、台所で夕飯の食器を洗っていた時に、三角コーナーの近くに立てているハエ取り棒に、なんかいつもよりデカいものがくっついていることに気づいて見てみたら、コバエではなくてクモがくっついていた。(!)
いわゆる「ヒャーとりコンブ」ってやつだ。
母の田舎(長崎の離島)では、クモのことを”コンブ”っていうらしい。
そしてハエのことを”ヒャー”というらしい。
なので、巣を作らず、ぴょんと跳ねる「はえを取るクモ」のことを、”ヒャーとりコンブ”と呼ぶ。
まぁ、クモは益虫なので、私も元々殺しはせずに逃がしてやるのだけれど、こうしてハエとり棒にコバエと一緒にひっついている姿を見ると哀れになってしまった。
きっと、餌のコバエを見て、ぴょんっと捕食しようとしたら、くっついて動けなくなってしまったということだろう。
「おかあさーん、来て来て。クモがくっついてんの。逃がしてあげて。」
と、クモに触れる母を呼ぶ。
何々?と訳が分からず寄ってきた母も、この哀れなちょっとお間抜けな姿を見て、本気で取ってあげる気になったようで、
「これ、無理やり引き離したら、足がもげるかもしれん。(困)」
と、慎重に、そーっと本体を(3㎜位?)粘着質の棒からにゅーっと引き離して、そっと手足についたネバネバを取ってあげた。
暫く縮こまったままだったので、(どれくらいあのままだったのかわからないけれど)もう死んでたのかと思ったけれど、1分くらいして、ソロソロと動きだした。
「良かったね、生きてたね。」
「コン君、もう2度とここに来るんじゃないよ。」
そう言って、母はまた外に逃がしてあげた。
あら。
そんなことがあった翌日の朝、また台所に同じくらいのクモがいた。
「コン君がお礼を言いに来たとよ。かわいかねぇ。」
「どうしてそれが、昨日のってわかるの?」
「さっき、もしかしてお前昨日のかい?ってっ聞いたら、ウンって頭を振ってたよ」
というのだ。
とてもそうは思えないし、そこまで近くに寄って見ようとも思わないので、そういうことにしておいた。
それから台所にはいつも同じくらいの大きさのクモが見え隠れしている。
おんなじものかどうかはわからないけれど、母はそう思って時々話しかけている。
私も好きではないけれど、距離を置いて共存しているこの感じは嫌じゃない。
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