世界の中だけで閉じきっていない外側の世界に通じる不思議な窓
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Hey! What's up people~!? 鎌田です。それでは編集者目線で気になった本をご紹介させていただきたいと思います。
今回はこちら、作品の外側の世界に通じる窓を備えた希有な作品「新訳 ドリトル先生月から帰る」です。
元々は人間のお医者さんだったドリトル先生は、オウムのポリネシアから「動物語」を習って、動物と自由に会話できるようになるんです。
これを知った動物たちはドリトル先生の元に押し寄せ、先生は獣医として様々な冒険に乗り出していくという物語なんです。
つまりオウムは羊や猫の言葉も理解できるという発想がとても好きです。この世界では人間が自分たちの言葉しかわかっていないのかもしれませんね。
本書はシリーズ物の続編で物語ではトミー少年が、ドリトル先生を月に残して一人で地球に帰ってくると、おうちはすっかり荒れ放題な状態でした。
「やっぱり先生がいないとダメなんだ!」と、動物たちと一緒に庭を手入れしたり、お金を稼いだりしながら、トミーは先生の帰りを待ちわびているわけです。
ある月食の晩に、ついに月に狼煙が上がって先生が巨大バッタに乗って帰ってくるんです。なぜか先生も巨大化しています。笑
そして何とおみやげは、みんなが怖がる、月のネコです! やがて、先生が月から帰ってきたニュースを聞きつけて町中の動物たちがドリトル先生の家におしかけます。
これじゃ月の本が書けないよ!と、困り果てる先生でした。集中できないですもんね。そこで、ならず者のマシューが思いついたアイデアが秀逸です。自らの人生を投影させたかのようにある提案をします。
ドリトル先生のシリーズというのは多少厭世的に感じながらも、現実の世界から断絶はしていない展開で、物語においては、みんなが自分の本性のままにあれこれワガママを言うわけです。
そしてそれをドリトル先生や他の仲間たちが完全にフラットに受け止め続けるところが良いですね。
ブタのガブガブのワガママとか、うさんくさいネコが営む肉屋のマシュー・マグ、スズメのチープサイドの悪態に白ネズミのいたずらなど、登場人(動?)物たちの個性を、ドリトル先生は決して曲がった見方をせず、論理的かつ、爽やかに肯定してくれるんです。
作者ロフティングが自ら描いたという線画に、笑う表情がほとんどないのもイギリスらしさを感じさせますね。
しかし残念なことに、アフリカや人種に関する描写に時代背景による差別的な点が多く見られために現代ではなかなか、推薦図書としてプッシュされづらいのではないでしょうか。
でも、闘牛という牛への虐待に怒った先生が自ら闘牛に出て、牛と「組んで」大芝居を打つシーンもあって、このあたりは人間の傲慢への批判と言えるではないでしょうか。
ドリトル先生は人間と動物にある種別に対する差別を取り除こうとする存在なのに、皮肉なことに別の時代的な差別意識が無造作に織り込まれているのは本当に残念でなりません。
私たちがここから学び取らなくてはならないことは、「現代文化から無意識に差別意識を呼吸してはいないか?」ということではないでしょうか。
日本語訳版は石井桃子さんが下訳をして井伏鱒二さんが仕上げたという豪華版で、文句なしにユーモラスで上品な絶妙の文体で私は一押しの推薦図書ですね。
本作品は物語の世界の中だけで閉じきっていない、物語の外側の世界に通じる不思議な窓を備えた希有な作品と言えるのではないでしょうか。
それではまたお会いしましょう!
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