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母と笑えば

天気予報は曇りのち雨。ところが朝、雲が切れて日がさしてきたので、なんだ!晴れるんじゃんと母と買い物に出た。

年末の買い物から野菜だけが足りなくなっている。
長年ペーパードライバーだったわたしも一念発起、11月の帰省時から義妹の車を借りて、運転を再開。とはいえ近場の、駐車場が広いスーパーやコンビニ限定で運転し、少しずつ勘を取り戻しつつあるところ。
怖がりなので慎重派のつもりだけれど、隣に乗っている人からは怖い運転と必ず言われる。そーかなぁ??

道案内は助手席に座った母だ。
「この道真っ直ぐね」
「え! トンネルくぐるとこ? トンネル嫌い」
「こっちの方が楽だって。トンネルの中ですれ違おうなんて人は1人もいないよ。どっちかが待ってるから大丈夫」

その言葉どおり反対側からくる車の気配はなく、すんなりとトンネルを潜って、一里塚の一本松を右の折れ、信号を右に曲がって真っ直ぐに母の案内通りに車を走らせていた。

「で、あそこのテカテカしてるとこを入る」
「テカテカ?」
「テカテカしてるじゃん」
テカテカしか言葉が出ない母。多分ウインカーのことを言っていると思うのだが、前方に右に折れようとしている車が一台、でも、その方向にスーパーはありそうにない。

「どのテカテカよ。あれ? 右に曲がるわけ?」
「違う。そこにテカテカしてるじゃん、あそこでホラ」

そこ? あそこ?
うー、わからーん!

右のテカテカウインカーの車を通り過ぎると、左にウインカーを出して減速する車が。
あ、あれかと思ったところでスーパーの看板も見えた。

「テカテカって、、、。もう少しわかりやすく教えてよ」
と、言いながらもうおかしくてたまらない。   
「だって、ぷれこ知ってるじゃん、スーパー」
「知らないよ。こっちに移転してから初めて来てるんだよ」
「そーか、知ってると思った」
「知らないよ。だから道案内してもらってるんじゃん。にしてもテカテカって何よ、テカテカ、、、」

やばい、お腹が痙攣してきた。
駐車場に入って車を停めようとすると
「あっちの方が良くない?」と、母。言われた方に車を回すと
「あ、やっぱこっちでいいか、ぷれこはバックで入れるつもり?」
「バックで入れるよ」
田舎は前向き駐車をする人が多い。母もかつてはその1人だった。
「じゃあ、そっちでもいいか」

何が「じゃあ」なのか?
なぜ、後ろ向き駐車と前向き駐車で、停めるべき場所が違うのか?
一台ずつの間隔も東京に比べたらずっと広い駐車場で、母なりのこだわりがあるらしいのだが、わたしにはまるでわからない。
それでもあまりに真剣な母の言葉を聞いているうちに可笑しくて仕方なくなった。
何が可笑しいのか、もうわたしにもわからない。とにかく笑いが止まらない。
「テカテカ」
思い出してまた笑う。
「テカテカって、なに」
母も笑い出した。
笑いながら、これで良いんだなと思った。これからもこうやって、笑って過ごしていけば何とかなる。

「あ、お豆腐買わなきゃ」
「昨日、買ったじゃん」
「うそ、買ってないよ」
「薬局に食品もいっぱいあって、買って帰ったじゃん。木綿豆腐の3個セットのやつ」
「そうだったっけ」

母は全く覚えがないようだったが、この秋以降はいつもこんな調子だ。
しばらく別の買い物をして、店内を歩いていると再び母が

「豆腐買わなきゃ」
「だから、昨日、、、」

また、お腹の皮がよじれそうになる。そんな毎日。

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