短編小説を読む⑫スタインベック『赤い子馬』
パルです。
バックにさっと入るくらい薄い文庫本が好きです。
今回の本は156ページ。ちょうどいい薄さです。
『赤い子馬』
スタインベック
西川正身訳 新潮文庫
この物語はカリフォルニア州のサリーナスの谷と呼ばれる湿地帯が舞台で、ここは作者のスタインベックの故郷だそうです。
大きな二つの山脈に挟まれた自然のなかで牧畜を営む両親と暮らしていたそうで、その自然の雄大な描写や母手作りの朝食やおやつがおいしそうで、アメリカって行ったことないけど、なんかいいなあ、と思わせてくれます。スタインベックの小説は既にアメリカでは古典の部類だそうで、日本でいうと夏目漱石の小説をよんで、なんか日本ってよさそうだなーと思うくらいの感覚なのでしょうが、それでもそのように思わせてくれるというのがうれしいなーと思うのです。
物語の主人公は10歳になったばかりの、はにかみ屋のジョーディ。ある日、厳格な父から子馬をプレゼントされます。赤毛の子供の子馬は強情そうな目を光らせていて、ジョーディは興奮のあまりのどがつまって息ができないほどでした。
しかし、ある日日向ぼっこさせるつもりが雨が降り、子馬は風邪を引いてしまいます。使用人であり馬のスペシャリストのビリー・バックが呼吸がしやすくなるよう馬ののどを切開してくれるのですが、それでも嵐の夜、子馬は小屋をぬけだしてしまうのです。
大きな、自然の中で、自然の恵みを感じながらも同時に自然は無慈悲で「なぜ自分がこんな目にあうのか?」問いかけても答えてはくれないのです。
理由のわからない理不尽なことに対する疑問のようなものを、スタインベックは幼いころから感じていたのではないでしょうか。
もし、竈門炭治郎がスタインベックの側にいたら、その匂いをかぎ、
と聞きそうです。
理不尽なことに対する怒りは、その後、砂糖工場で働きながら、資本家と労働者との関係に向けられることになったのではないでしょうか。
労働の経験から書かれた「二十日鼠と人間」は、私は映画でしか観たことがないのですが、「なぜこうなってしまうのか?」どうしようもないことに対する怒りと哀しみが溢れ出ていて、何年も前にみた映画なのに忘れることができません。
ただ、この『赤い子馬』は、おおらかな自然の中で、さまざまな境遇の大人と出会いながらジョーディ少年が成長していく様に清々しさを感じます。そしてそれは前回読んだ本の訳者である西川正身氏の、感情を抑えた訳の力もあるのだと思いました。
ここまで
お読みくださりありがとうございました🍑