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申し訳ありませんでした。
もう、20年以上前の話だ。私は、ある町のホテルで音響や照明の仕事をしていた。結婚式の披露宴、大きな会議、〇周忌といった、大きなイベントで、音響、照明の準備や、操作、片付けの仕事だった。
私はミスが多かった。新郎新婦の入場で曲がかからなかったり、スライド上映でスクリーンをタイミングで降ろさなかったりした。
私はそういった重要な仕事から外されるようになった。小屋付きと言って、その部署の部屋で、いろんな人に連絡を取ったり、物を届けたり、フォローの役割になった。
その現場にいる年数だけが積み重なっていった。時々、人が足りない時、披露宴などの仕事も担当することもあったけれど、多くは、学生のバイトで、経験を積んだ人が担当することが多かった。学生の頃、同級生だった男が、そのホテルの音響照明のメインの仕事になり、私の上司になった。彼は、色々私に、アプローチしたが、私は変わらなかった。「一朗は、もういい」と、彼が言ったという噂を僕は耳にした。
首にならなかったのが、今では、不思議だ。そのホテルはその周辺では最も大きなホテルで、私のように、ミスを重ねる人物がいていい場所では、なかったはずだ。
私は、ある日、仕事の隙をついて、精神科に駆け込み、数か月後退職し、実家に帰った。
それから、20年以上がたった。
私は、ラジオを時々聞くのだけれど、結婚式の披露宴でよくかかる曲を耳にすると申し訳なく思う。「lovin' you」とか「I will allways love you」とか「Can you celevrate?」とか。
新郎新婦がどれほどの思いとエネルギーを費やし、未来を思い、まさにこの瞬間から二人の歴史が始まる。そんな二人の入場に「ここぞ」のタイミングで曲がかからない。二人は、一生、忘れないかもしれない。取り返しは、つかない。
こんなところに書いてもあの方々には届かない。でも、思わずには、いられない。
「申し訳ありませんでした」。