『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』感想
今日『ホールドオーバーズ 』を観てきた。
最近、元気が無さすぎて、ずっと家にいたので「なんとか外に出ねば」と思い、宇多丸さんが絶賛していたこの映画を観に行った。観た感想としては、めちゃめちゃ泣いたし、すごく良い映画だったけど、今の元気のない精神状態で観るべきではなかった。
妄想型統合失調症の父が出てくるシーンがあって、アンガスは会いたかった父にやっと会えて、抱擁して、楽しそうに学校のこととか色んなことを話すんだけど、父はずっとぼーっとしている。
ここまでは「悲しいけど会えて良かったね~」と思っていたんだけど、父が急に真剣な顔になって「お前に伝えればならないことがある。食事に毒を入れられている。」(はっきりと覚えていないがこんなようなこと)を言った。
私はこのとき背中がヒヤッとして、呼吸が止まった。その後、車に乗っているときのアンガスの表情を思い出すだけでも苦しくなる。
私も同じような体験をしたことがあって、そのときを思い出した。アンガスは「以前は明るい父だったけど、だんだんおかしくなった」と言っていた。
そうなんだよね。以前は明るくて、楽しくて、「普通」だった人が、なにかのきっかけで別人になっちゃうんだよね。でも、姿形は以前と同じだから、前と変わらず大好きなのに、相手には話が通じない。突然ありえないことを言って、今まで見たことない姿で大暴れする。本当に怖くて悲しくて、どうすればいいのかわからない。でも大好き。誰を責めればいいのかもわからない。
私はこのシーンを観てから涙が止まらなかった。
家に帰って何時間か経った後に、突然このシーンがフラッシュバックしてパニックになった。気持ちの整理をしたくて文章を書いている。
『ホールドオーバーズ』はすばらしい映画だったけど、もうちょっと元気があるときに観に行けば良かったな~と思った。なぜか前も元気のないときに『羊たちの沈黙』と『セブン』の2本立てを観に行ってゲロ吐きそうになったことを思い出した。笑(アホすぎる)
冷静になってきたところで、映画の感想。
まず、映画のメインがお前かーいって思った。メインのキャストにアンガスがいるんだけど、最初の生徒のやりとりを見ていると、クンツの方があきらかに悪ガキで、結構差別的だから、この悪ガキがいい奴になるんかなーって思っていたら、メインはアンガスだった。クンツは最後までただただ嫌なヤツだった。自分の特権性に無自覚で、それゆえに差別主義的なクンツ。でも、彼も毎年クリスマスは学校に残る組で寂しさや苦しみを抱えてるんだろうなと思う。
他の子たちも、それぞれ隠しきれない寂しさや孤独が垣間見えて胸が苦しくなった。みんな恵まれていて、特権を持っている。でも苦しい。でも特権性に無自覚で憎たらしい。最近Xを見てると少数のいい人間と多数の悪い人間かしか存在しないのではないかという絶望的な気持ちになっていたけど、人間ってもっと複雑で尊いし、みんな大切ということを感じさせてくれる映画だった。
特にハナム先生とメアリーとアンガスの食事シーンは最高。
ラストのアンガスの親が押しかけてくるシーンでは「アンガス乗り込めよー」とも思ったが、「子どもはおとなが守るものだ」というメッセージにも思える。昨日アマプラで『SNS-少女たちの 10 日間-』というドキュメンタリーを観たからより強くそう思う。
ハナム先生とは対象的に子どもの将来を無自覚に潰そうとする親。継父は「性根鍛えなおしてやる」みたいなこと言ってアンガスを軍人学校(だっけ?)に入れようとするし、、、。アンガスはうつ病のこと親に話してないんだろうな。まあ、こんなマッチョな考えの親に話せないわな。親もアンガスのこと嫌いなわけではないのだろうが、あまり関心がない。だけど、進路には口を出してくる。これは家父長的な昭和のお父さんスタイルで本当に最悪。お願いだから、アンガスの話を聞いてあげてくれ。実の父が統合失調症&若年性認知症になって、なんのダメージも受けないわけがないだろ。おとなは逃げられるけど、子どもは逃げられない。だから、おとなが安全な場所を作ってあげてほしい。
映画の中では、特権性に無自覚でそれゆえに精神的にタフな人が高い地位に就いて、特権性に自覚的で思いやりがあり、精神的な問題を抱えている人が低い地位に置かれていた。現実でもそうだよね、、、。
弱き者たちが、自分がいる場所で、ゆるく連帯し、生き抜くってこれから生きていくうえで必要なことだと思った。
最終的にハナム先生は学校を追いやられちゃったし、どうなるんだろう。みんな大丈夫であってほしい。(祈り)
この映画は宇多丸さんが言うように大切な映画だし、この映画を大切だという宇多丸さんは信頼できると改めて思った。
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