#120_道徳授業の創造(宮田丈夫)を読む

道徳に関連する古書を少しずつ読んでいる。
心に響く著者の一人が、この宮田丈夫だ。

宮田は、生活と価値の統一を目指した道徳授業を構想した。
これを説明するには、道徳教育の歴史から語られなくてはならない。


生活指導的発想の道徳授業

宮田(1971)によると、昭和33年に道徳が特設された際は、生活指導的な発想で始められた。
従前における修身教育が批判される形で進展を見るようになったため、道徳自体がひどく忌避されるようになったからである。
しかし、生活指導は即時的なものが多く、計画性に欠ける。
その点が批判され、新しい発想での道徳授業が発足した。

生活主義(問題主義)的発想の道徳授業

生活指導的発想の道徳授業が批判された後、新しい発想の道徳授業が試みられるようになった。
子どもが日常生活において当面している道徳問題を解決するという点に焦点を据えた道徳授業である。
これらは子どもの生活リズムを追って出されるため、指導の計画化ができるようになった。

一方で、この授業は問題を解決することに重きが置かれていて、道徳的価値をどのように理解できるようにするかは大きな問題にはなっていなかった。
例えば「過ちをして正直に詫びたところ、かえって叱られた」という道徳的問題を解決する過程の中で、正直誠実ということが、人間関係においてどのように重要であるかを理解させることはほぼなかったようだ。

価値主義的発想の道徳授業

昭和40年、文部省は読み物資料の基準にふれた「通知」を出すようになる。
この頃から急速に普及し始めた副読本の基準を示すものだった。
この「通知」に示されている重要な点は以下の2点である。
①読み物資料は道徳的価値が明確に把握されるようなものでなければならないこと
②読み物資料として名作や伝記のような感動教材が薦められていること

いかに価値を理解できるようにするかに力点が置かれ、子どもたちがどのような道徳的問題に取り組んでいるかは二の次になった。
葛藤教材から感動教材へと、教材の種類もシフトしていった。

道徳授業の紆余曲折を経て見えるもの

この著書は昭和47年に刊行されているため歴史的史実はここまでだが、著者はこの歴史を鑑みた上で「生活と価値を統一した新しい道徳授業」を提案している。

生活と価値の統一はわたしも授業の中で様々な形で実践を重ねてきた。
教材に描かれたよさを当たり前と捉えずに、問い返しながら深掘りしていくスタイルである。
昭和50年代以降の道徳授業の紆余曲折ももう少し紐解くべきであるが、今までざっくりと捉えていた道徳科の歴史が少し具体的に見えてきたのが今回の収穫だ。
また機を見て読み進めたい。

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