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踊れ、汚濁に塗れた美しき恥辱とともに【詩】

わたしの心臓は
極上の空気を
忘却からも失われ
ただ得体の知れない華やぎだけが残る
そんな香りを
味わい
巡らせて
鼓動を
倦むことなく
繰り返している

熾烈なる劫火に焼かれた
愚鈍の濁流が吐き出した
見るも惨めな無知の
溶解した姿
だが
この苦渋を…
打ち捨てられて
怨恨を抱く血液のように
飛び散った
恐怖の転落死体を…
わたしの舌は
狂喜して
地を這いながら
啜り
舐めずりまわしている

荘厳なる天上の世界に
横たわる父が
眠りの乳房から
慰めと愛と美貌とが混じり合う
溶けたピエタのような
そんなミルクを
恍惚のなかで
淫らに貪り吸うのを
わたしの眼は
拒絶した

ゆえに
わたしの脚は
その世界を踏み壊した
そして
その墜落した天上の世界の
瓦礫の上で
文盲たらしめる
重力の鎖を纏いて
醜く踊るのだ

しかし
わたしの手が

妄想と幻想の
うつろな鏡に
己の精液を吸った筆で
無垢なる
狂乱の文字を
書くのをやめて
己の舌を
その筆で突き刺し
心臓を抉り抜いて
開いてそっとめくり
掠れて残る
これまでの過去の負債を
書き留め始める

ふたたび
わたしの脚が
残酷なる歴史に同情し慟哭していたわたしの脚が!
己を癒し
勇気と怒りに震えて
踊り始める
その時まで

そしてあらたに
救わなければならない何かを示す聖書となった
抜き出した心臓と
太陽を孤独にする雲を切り裂く翼となり
あなたは世界ではないと
かつて偽られ蔑まれ
浄化することの不能となった

目の前にいる
化粧しドレスを纏った美しい
可憐なる穢れに
愛を告げ口づけをする
舌を
飲み込むようになるために

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曲田尚生
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