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亡葉乃胸ーナハノムネー【詩】

静かに…
夜ガクル
夜ガクル
焼かれ爛れ渇き苦しむ、大量に製造された亡者たちを引き連れて
夜だ、夜はもうここにいる

砂漠に君臨する一本のポプラの巨大樹は
かつてといまとこれからの罪過を吸って育ち
その幹の心臓を神へと変えてうろをつくる
そこでひとりの永遠は、産褥に就く間もなく
その神をおんぶして、彷徨う
まわりには
恐怖の、歓喜の、そして破壊の影が
呪詛を口遊くちずさみながら
なかよく手をつないで囲むようにして踊る
(ふりかえり、樹見タラ葉、、、は亡くなっていた…)

道のり半ば
背負われている神に
担うには重過ぎる、投げ出すには重過ぎる、死ト焰ノ記憶に
永遠は疲労し、老いて、ついには、膝崩れ、砂の上に這い蹲り
水ヲ下サイと吐き、息絶えた
そのとき
聾唖の導火線のように永いその女の黒髪は抜け落ちた
虚無の情熱の音を轟かせて

シュ(そこで夜の天蓋は堕ち)
ポッ(太陽を置き去りにした、祝福されない朝へと、内臓を噴き上げ裏返った)

歓迎されない朝、早過ぎた朝、それでも
朝は朝だ、朝は夜で始まる
だがこの朝はわれらを打ち据える
頭上の無の白にはいくつもの苦悶の表情が浮き出ている

夜だ、陰翳を攫う舞踏をする夜を迎えよ
ぼくは筆を手に、抜け落ちた永遠の黒髪で
夜が沈んで静まり溜まる小さながんを編む
そして祈る手で献灯し
捧げられた心臓たちはあかく、そのなかで咲きほころぶ
露わになる夜の脈拍は
鼓動を脈々と繰りかえ
夜の花瓶から
若葉が芽生え遠近おちこちに群生し
あの棄てられた神は軽やかに
原っぱで舞い踊り打ちひしがれ散っていった亡き多くの
民を引き連れて、ともに
喜び合い、トハノミドリの歌をうたう



※非公開にしていましたが再投稿しました。
※2023年に文芸思潮さんから奨励賞を頂いた詩のひとつです。

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曲田尚生
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