自ら命を絶った息子――命って、生きるってなんだろう?⑧
最愛の息子を亡くし、生きがいを失った母親の独り言。
《大好物》
入学式の帰り、猫の餌を買いたいと、スーパーに寄った。
猫はもう、おばあちゃんなので、食欲が無く弱りはてていた。
息子は、本で調べ、年老いた猫用の、栄養価の高い餌を選んで、私の買い物カゴに入れた。
反抗期で、無視ばかりされてたけど、
息子が優しい子に育っている事が
嬉しかった。
そしてその後、グレープフルーツをカゴに2つ追加した。
息子は、グレープフルーツが大好きで、
その日も、砂糖をたっぷりかけ、満足げに食べていた。
――あなたの大好物を、買い物かごに入れ、昔の笑顔を思い出す。
だから、大好物を見ると辛くなる。
食べさせてあげたいのに、食べさせてあげられない現実。
大好きなグレープフルーツは、
仏壇の上で、いつまでも無くならない。
生きてた頃は、あっという間に消えたのに、
今は、飾りのよう。
お母さん、食べられないんだよねぇ。
食べたいけど、食べると泣いちゃうから、食べれない……
でもいつの日か、
砂糖をいっぱいかけて、たべてあげるね。