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橋本治「ひらがな日本美術史」第2巻 北野天神縁起絵巻 大和絵というもの 笑っちゃだめだってば。
橋本治が爆笑している。
「北野天神縁起絵巻」は、ハチャメチャで陽気でファンキーで、多分シリーズ中いちばん笑える章だ。
平安時代の政治家、菅原道真は政権争いに敗北して九州の太宰府に飛ばされ、そこで都を想い、焦がれ死ぬ。
やがて怨霊となって現れ、かつての政敵達を祟り殺すというすごく有名な話しで、「天神さん」とか、親しげに呼び慣わされて祀られているけど、わりかし怖い神様なのだ。
菅原道真は平安時代の人だけど、「北野天神縁起絵巻」が描かれて北野天満宮に奉納されたのは鎌倉時代だ。
でも、橋本治はそんな時代背景をすっ飛ばして、とにかく爆笑している。
双極症の影響で難読症を抱えていた私が、どうしても読みたかったのは、この「ひらがな日本美術史」だった。
難読症からどうにか立ち直りかけて、もう一度読書を始めようと思った時は、まだ黙読が出来ない状態だった。
読書の再開は橋本治の本からだったが、ただでさえこの人の本はややこしいのに、黙読なんて無理な話しだった。
だから、最初「ひらがな日本美術史」は音読していたのだ。(子供か。)
「北野天神縁起絵巻」も音読していたが、あまりにも笑えて苦労した。
もし読む機会があったら音読してみて。
笑えて読めないから。
「すげえなァ、陽気だなァ、派手だなァ、エネルギッシュだなァ」と、なんだか楽しくなってしまうのである。
そういう不思議な絵巻物は、あまりない。
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この雷神、ほんとに祟ってるんだろうか。
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地獄の鬼達もこのありさま。
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そして極めつけは宮中で雷神にふっ飛ばされる貴族。
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あなただって、この貴族のぶっ飛び方を見たら、笑うでしょう? 宮中に現れて、貴族をこんな風にブッ飛ばす雷神の姿を見て、あなたは本気で「こわい」と思いますか? 思わないでしよう?
この角をはやして目を剥いて牙を丸出しにしている雷様を見たら「こわい」と思うよりも、「愛嬌があってチャーミングだ」と思うでしょう?
吹っ飛ばされている貴族の方の表情だって、決して"無惨"じゃない。 情けなくて、すっとぼけて、「あんたらなに考えて宙に浮いているの?」と言いたくなるようだ。
このシーンを描いた絵師は、絶対にこれを嬉々として描いたのだ。
不謹慎を承知で言うけど、このぶっ飛ばされる貴族の姿に私は既視感を持った。
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この絵巻物は「奉納」される絵なんだから、当時の人たちにとっては大真面目で、厳粛で、神聖な捧げ物なのだ。
そんなに爆笑しちゃダメでしょうと思うが、そう言ってる私がプープー吹き出しているんだからどうしようもない。
「どんな厳粛な顔をしている貴族の皆さんでも、結局はああいうポーズを取れちゃうんだなァ」と思いながら、平安時代の宮廷の中を歩いてみたい。 一人でゲラゲラ笑って、もう立っていられなくなるだろう。
この章、音読できてよかった。
難読症になってよかった。
それにしても日本美術は奥が深い。プーッ(笑)