##NAME## 読書感想文
##NAME## 児玉雨子著 ネタバレあり。
主人公雪那(せつな)の短編小説。物語はおよそ10年前の子供の頃の自分と大人の自分を交互に見せる。終始淡々として柔和な文体の中に時々鋭利な刃物が混ざっているみたいで、綺麗な言葉と美しい比喩、細かい描写で雪那の現実が描かれている。同じ技能事務所の美砂乃ちゃんに対する嫉妬を含む憧憬や、10年前の水着での撮影は児童ポルノだったかどうか、10年前の学校生活や人気がなく水着での撮影会に呼ばれないしそもそも水着が嫌で、受からないオーディションや中学受験。お母さんに言えば自分の苦労話に摩り替る。もう呼吸が上手く出来ない雪那。それでもなんとか息をして、お母さんに事務所を辞めたいと言った。そして何度目かで辞める事が出来る。お母さんの雪那への態度は決して虐待ではない。あなたの為だと胸を張っている。あなたの為だと泣いている。でも実際は自分の為にやっている。その善意が気付かないで子供を追い詰めている。苦しいのはお母さんじゃなくて雪那なのに、子供の雪那は何も言い返せなくなるのは当たり前だ。
10年後の雪那は10年前の自分を消そうと藻掻いていた。家庭教師のバイトでは、親御さんに検索されて10年前の水着の画像が出てきてしまう。それで何度もチェンジ。大好きな作家が児童ポルノで逮捕。あの時、全巻買って読んで救われていた大好きな漫画の原作者。大人になってからは夢小説で読んでいた二次創作作品。空欄の名前に##NAME##が入る。10年前なら溜息しかでなかったはずだ。大人になった雪那は明確な意思を感じる。淡々とした口調が邪魔をしているようだけど、憤怒や悲哀が確かにあって、それは全く邪魔にはなっていない。糧になっている。
結局は「みさ」と呼ばれたかった美砂乃ちゃん。「ゆき」と呼ばれた雪那。呼ばなかった事をいつまでも後悔をしているみたいで、10年経っても美砂乃ちゃんは影響を与えていた。物語の最後、意味なんてないその名前がこんなに大事な物だったと気付いた所がすごく泣けた。馬鹿だなと笑いながら綺麗な言葉たちが幕を閉じた。