マジェンタ色の花
夏休みの午後は、近くを探検するのが楽しかった。
あの頃は小さな路地が迷路のようで、曲がり角の先にある秘密に、ドキドキわくわくしていた。
そのひとつ、
小さな用水路にそって、まっすぐ進むと鬱蒼と茂った山道。
その途中、小さな橋を渡って左側に大きな門が見え、門柱には”幼稚園”と記されている。
鉄の柵の隙間から教会の塔がみえる。
祖母の家から近いところに幼稚園があった。
ミッション系の園で、敷地内にはチャペルが建っていた。
私が訪れるのは学校が休みになってから。
もちろん、幼稚園も休みなのである。
「日曜学校行こう」
頭にハテナを浮かべながら、従姉の後についていく。いつも楽しいことを思いつく従姉が大好きだった。
この道は幼稚園へ向かう道だ。不思議なことに閉まっているはずの門は開いていた。
軽装の私たちとは全く違う装いの親子が、慣れた様子でチャペルの中へすすむ。
それに遅れないようにと、従姉の目配せに頷いて静かに続く。
チャペルの中は薄暗くて、ロウソクの灯が祭壇を飾ってた。
オルガンの音に合わせて歌ったり、ミサの終わりに祭壇の前に並んだ人たちは、司祭から口に白い丸いものを与えられていた。
それが魅力的な菓子に見えて、列に並ぼうとしたら「ダメよ」と、止められた。
少し残念な気持ちでチャペルを出ると、そこには夾竹桃の花が満開だった。
マジェンタ色の花びらが、真っ青な夏の空に眩しかった。
それから二度と訪れることは無かったが、子供時代の不思議な経験のひとつとして記憶に刻まれている。
今になって、あの白い丸いものは聖餅といって、洗礼を受けた信者に与えられることを知った。
本当はあの夏の日、チャペルで行われたミサに、行ってはいけなかったのかもしれないが、その疑問の答えはわからない。
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