全日本プロレス&NOAHの新人レスラー育成の歴史(1973~2024)
2024年のプロレス界では、安齋勇馬や斉藤ブラザーズなど、全日本プロレス生え抜きの新進レスラーたちが、活躍しました。
常時「ヤングライオン」と呼ばれる若手を輩出してきた新日本プロレスと比べると、ノアも含めた全日本系は、新人育成は今ひとつという印象が、これまではありましたが(デビューする選手の数、大成する選手の数、団体にとどまる選手の数、等々)、その傾向に変化が訪れているのでしょうか。
今回は、それを検証するため、旧全日本プロレス以来の「全日&ノア」の生え抜き新人デビューの系譜を、調べていきたいと思います。
全日本(もしくはノア)に5年以上所属し、それ以外の団体に所属せず、引退した選手。ならびに現在、在籍している選手は、太字にしてあります。
それでは。
〇1970年代
<全日本プロレス>
1973年 ジャンボ鶴田(22)/アントン・ヘーシンク(39)
1974年 大仁田厚(17)
渕正信(20)
1975年 ハル薗田(19)
1976年 天龍源一郎(26)
1977年 石川敬士(24)
1978年 プリンス・トンガ(19)
1979年 越中詩郎(21)/百田義浩(33)
70年代、馬場の新人育成方針は、道場で若手を鍛えあげる猪木新日本とは違って、即戦力の他競技経験者をスカウティングすることにありました。
ジャンボ鶴田と天龍は最初からトップ候補として入団し、天龍はブレイクまで時間を要したものの、その期待に応えて看板選手になったのは、ご承知のところです。
その分前座からデビューする新人は少なく、大仁田、渕、薗田、そして越中らは、長く前座用員として置かれ、苦労した側面がありましたね。
〇1980年代
<全日本プロレス>
1981年 三沢光晴(19)/ターザン後藤(18)/滝川隆寿(17)
高野直樹(19)
1982年 川田利明(19)
1985年 小川良成(19)
1986年 輪島大士(38)
1987年 高木功(26)/ジョン・テンタ(24)
1988年 小橋建太(21)/田上明(27)/菊地毅(24)
北原辰巳(24)
81年には珍しく前座組が大量にデビューしましたが、滝川、高野は早期廃業。しかしその中で、レスリング出身で天性のセンスを持つ三沢が、タイガーマスク時代を経て、全日本の大エースとなります。
川田利明、小川良成は、70年代同様の前座不足の状況に苦戦しつつも、次第にその実力で頭角を現していきました。
田上、高木、テンタといった「他競技スカウト組」が目立つ中、何のバックボーンもない小橋建太が、試合ぶりの評価でメインに抜擢されたのは、旧全日本では革命的な出来事でしたね。
〇1990年代
<全日本プロレス>
1990年 折原晶夫(21)
1991年 井上雅央(21)/浅子覚(20)
1992年 秋山準(23)/大森隆男(23)/泉田純(27)
1993年 本田多聞(30)
1994年 志賀賢太郎(20)/太陽ケア(19)
1996年 金丸義信(20)
1998年 丸藤正道(19)/森嶋猛(20)/橋誠(21)
天龍が離脱して、三沢川田田上小橋の若手四天王が中核となった90年代。
アマレス出身の秋山準、本田多聞に、大型の大森隆男など、定期的に新人がデビューし、SWSへの移籍によって抜けた人材を、カバーできましたね。
分けても98年にデビューした丸藤は、三沢以来の天性のセンスを持った逸材でしたし、金丸はどこでも仕事のできる地力を持つ選手でした。
しかしこの90年代にデビューした新人たちは、馬場の死後、三沢と共に
全日本を離脱し、ノアに移籍することになります(太陽ケアを除く)。
〇2000年代
<全日本プロレス>
2000年 力皇猛(28)/KENTA(19)
2001年 宮本和志(22)
2002年 タイチ(22)
2003年 KONO(23)
2004年 諏訪魔(28)
2006年 ブルート一生(24)
2007年 SANADA(19)/KAI(24)/BUSHI(24)
大和ヒロシ(24)
2008年 駿河一(26)
<プロレスリング・ノア>
2000年 杉浦貴(30)
2001年 鈴木鼓太郎(23)
2004年 潮崎豪(22)
2005年 谷口周平(29)/青木篤志(28)/平柳玄藩(25)
太田一平(23)/伊藤旭彦(22)
デビュー直後の力皇、KENTAを含め、全日本の生え抜き若手のほとんどはノアに移籍します。
焼け野原?になった全日本ですが、武藤敬司体制になると、それまでの体質が変わったのか、かえって新人育成が促進されていきます。
わけてもスカウト組の諏訪魔は、長く団体を支える顔となりました。
さらに2007年にはSANADA、KAI、BUSHIと好人材を輩出しますが、これらの新人はその後全員他団体に移籍してしまい、元の木阿弥になってしまうのでした。
一方ノアでは、入門は全日本だったアマレス組の杉浦が、団体の主軸に成長し、入門当初からスター候補だった潮崎も飛躍して、当初は新人育成は順調でした。
しかし何故か、2005年に谷口ら5人がデビューしてからは、2013年まで丸7年、新人デビューがないという、困った状況に陥ります。
理由については諸説あるのですが、いずれにせよプロレス団体で新しい人材がないことは致命的です。この間に内藤哲也らを育てた新日本とは差を広げられ、新人デビューの多いDDTやドラゴンゲートとの差を詰められた、一つの要因となったことでしょう。
ただ先ほど触れたように、全日本の方も、この間(2006年~2012年)にデビューした10人が、その後全て団体を離脱、廃業してしまったので、デビュー0人のノアと状況は、似たようなものです。
両団体は、育成体制の再編を、余儀なくされるのでした。
〇2010年代
<全日本プロレス>
2010年 中之上晴文(24)/曹駿(20)
2011年 ジェイク・リー(22)/征矢匠(24)
2014年 野村直矢(21)
2015年 青柳優馬(20)/佐藤恵一(22)
2017年 岡田佑介(24)
2018年 大森北斗(23)蛯名和紀(18)
2019年 青柳亮生(20)/田村男児(20)
<プロレスリング・ノア>
2013年 熊野準(22)
2015年 清宮海斗(19)/友寄志郎(24)
2017年 宮脇純太(20)
2018年 稲村愛輝(26)/岡田欣也(26)
触れたように、全日本は武藤離脱と共に新人選手が去り、立て直しが図られます。
幸い、秋山体制の下、ジェイク・リー、野村直矢、青柳優馬の若手三本柱が育ち、フレッシュムードで興行を盛り上げました。
ただ期待された野村は怪我で団体を離れ、ジェイクも2020年代になって
団体を離脱と、うまく団体の財産を築けません。
それでも一人残った青柳は「陰湿」という得難いキャラを確立して、全日の中軸に成長したことは、何よりでした。
そして2018年から、現在の全日を支えるレスラーたちが、デビューしていきます。
一方ノアでは、2013年に、ただでさえ少ない生え抜きレスラーが、潮崎、鼓太郎、青木と離脱して(潮崎はその後復帰)、苦しい状況が続きます。
そんな中で清宮海斗という、久しぶりにスター候補となる逸材がデビューし、団体は彼の売り出しに一点集中していくことになります。
「7年間デビューなし」の空白後は、多少はデビュー・ペースは上がったものの、清宮以外は決定的な人材をなかなか生み出せず。
それでもヘビーの稲村、ジュニアの宮脇には、今後の期待がかかるところです。
〇2020年代
<全日本プロレス>
2021年 斉藤ジュン(35)/斉藤レイ(35)/塚本竜馬(24)
2022年 安齋勇馬(27)/井上凌(20)
2024年 長尾一大心(21)
<プロレスリング・ノア>
2020年 矢野安祟(20)
2022年 OZAWA(26)
2023年 大和田侑(23)
2024年 佐々木憂流迦(35)/小田嶋大樹(23)
全日本では斉藤ブラザーズ、安齋勇馬という大型新人がデビュー。
団体も、彼らを大きくプッシュして、2010年代デビュー組や本田竜輝、綾部蓮、ライジングHAYATOら移籍組も加え、「ゼンニチ新時代」をアピールして、団体を好調に導いたのは、ご承知の通りです。
新人の育成と定着という意味では、かつてない順調ぶりと、いえるかもしれません。朴訥な選手の多かった旧全日と比べ、宮原健斗や青柳の影響なのか、キャラが立ったレスラーが揃っているのも、魅力ですね。
ただ、安齋以降の新人デビューが少し苦戦しているようで、そこの部分は気を許さずにやっていく必要はあるでしょう。
一方ノアでは、せっかくデビューした矢野や岡田が契約解除となり、期待の稲村も迷いが見えて、「若手は清宮一人体制」から、なかなか抜け出せいできました。
ただそれが、今後急速に変わっていく可能性も、見えてはきました。
2022年デビューのOZAWAが、まさかの暴露系でブレイク。
そして総合格闘技から転向した佐々木憂流迦。
この二人には、これまでのノア生え抜き組にはない「色気」があるのです。これが真っ正直な清宮と交わった時に、どう化学反応するか。
一方で大和田侑と小田嶋大樹は、これは全日系=ノア系の、伝統に即した意味での逸材であり、大器を予感させます。
これだけ人材が集中したことは、ノア旗揚げ以来初めてと言えるかもしれません。これを生かせるかどうかが、今後のノアの命運を握るでしょうね。
・・・といった感じで、旧全日本以来の、新人育成の流れを見てきました。
見た感じ、旧全日本の少数精鋭な感じを、ノアが引き継いでる感じはありますね。入門の基準が変わらないのでしょうか。
ノアの「デビュー7年なし」という状況も、それに由来するのかもしれませんし、例のOZAWAの暴露(「清宮のせいで何人練習生が辞めたんだ」というやつ)も、一理あるのかもしれません。
全日本の方は、武藤参入以降、新人育成の体質が変わったようですが、その代わり、選手が団体に居つかないという問題を抱えていました。これはきっと団体の経営状況とか、ギャラの問題もあるんでしょうね。
いずれにしても「新人のデビューが少ない」とか「新人が団体に居つかない」といった両団体の問題は、大きく改善方向に向かっているので(ノアも「今後はスカウティングに力を入れる」と宣言していますし)、今後に期待したいところです。
早春