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NOAH新人育成の長い道のり~旗揚げからOZAWAまで
全日本プロレス&NOAHの新人レスラー育成の歴史(1973~2024)|サンダーボルトウイリアム
でも紹介したとおり、これまでNOAHは新人の生え抜きデビュー選手の育成に、だいぶ苦労してきました。
そこへ、まるで突然変異のようにOZAWAという、デビュー2年4か月でGHC王座を獲得するスーパースターが現れたのですが・・・
そのOZAWA自身が「何十人と、清宮のせいで練習生がやめていった」とネタにするくらいですから、育成の問題は多くの人に意識されていたのでしょう。
今回は改めて、ノアの新人育成の歩みを検証していきたいと思います。
「ノアでデビューした生え抜き選手が、その後どのような成長経過を
たどったか」を、定点観測的にあげていきます。
毎年の新年最初の大会での、ノアの生え抜き選手の出場試合順と、勝敗の記録を出してみます。
個々の選手の成長ぐあい、団体としてどのくらいの生え抜き選手を抱えられていたか・・・の、参考になると思いますし、ひいてはそれがOZAWA発言の、裏付けにもなるでしょう。
杉浦選手はノアデビューですが、入門は全日本プロレス時代なので、除外。
正式なノア入門、ノアデビューの第1号である鈴木鼓太郎(鈴木康弘)から、話を進めようと思います。
<2002年~2005年>
○2002年1月5日 ディファ有明
⓶金丸(逆エビ固め)鈴木康弘
○2003年1月10日 日本武道館
③KENTA・杉浦1-0佐野・鼓太郎
○2004年1月10日 日本武道館
①ゲレーラ(エビ固め)鼓太郎
○2005年1月8日 日本武道館
④田上・佐野1-0本田・潮崎
③小川・SUWA・マルビン1-0ヨネ・KENTA・鼓太郎
ノアは全日本から移籍した丸藤、KENTA、金丸ら、まだ20代の有望なジュニア選手を抱えていたので、なかなか浮上のきっかけは掴めませんでしたが、鈴木鼓太郎の実力は、デビュー当時から定評がありました。
また、ヘビー級初の新人である潮崎豪は、そのルックスの良さもあり、最初から「将来のエース候補」の呼び声が高かったですね。
旗揚げから丸5年でデビュー2人は、数的には少ないのですが、その代わり厳選された選手を出してきた・・・ということも事実で、この時期はまだ、
「育成失敗」とは言えない状況でした。
<2006年~2009年>
○2006年1月8日 ディファ有明
⑦丸藤・鼓太郎1-0KENTA・マルビン
⑤小橋・潮崎1-0スコーピオ・ダコタ
②池田(エビ固め)平柳
○2007年1月7日 ディファ有明
⑥三沢・小川・鼓太郎1-0森嶋・ヨネ・谷口
⑤斎藤・KENTA1-0秋山・青木
⓶佐野・井上・川畑1-0本田・菊地・潮崎
①百田・マルビン1-0橋・平柳
○2008年1月6日 ディファ有明
⑧丸藤・森嶋・ヨネ1-0三沢・潮崎・太田
⑥<閃光十番勝負>青木(エビ固め)リチャーズ
⑤斎藤・バイソン1-0秋山・谷口
④小川・鼓太郎1-0KENTA・石森
⓶本田・菊地1-0佐野・伊藤
①志賀・川畑1-0泉田・平柳
○2009年1月12日 ディファ有明
⑨健介・中嶋1-0秋山・青木
⑧潮崎(片エビ)佐野
⑦鼓太郎・平柳1-0KENTA・石森
⑥丸藤・力皇・ヨネ1-0三沢・小川・谷口
④ブキャナン・ウォーカー・フィッシュ1-0田上・杉浦・伊藤
秋山のベルト返上からの流れとはいえ、潮崎はデビュー5年で団体の看板であるGHCヘビー級王座に到達。鼓太郎もGHCジュニアタッグ王者になり、2000年代前半デビュー組の育成は、順調だったと言えるでしょう。
しかし2005年暮れの大量デビュー組は、最も期待された谷口周平が伸び悩み、青木は安定した実力が評価されたものの、太田一平が2009年に引退、伊藤旭彦も2010年に引退し、平柳は体格的にパンチ不足と、育成面の問題が出始めました。
より深刻なのは、その2005年末以来、新人デビューがなかったことで、
練習生の段階で辞めていく選手が多かったということでしょう。
<2010年~2013年>
○2010年1月9日 ディファ有明
④力皇・ヨネ・谷口1-0秋山・丸藤・青木
③潮崎・斎藤1-0田上・マルビン
⓶金丸・平柳1-0小川・宮原
○2011年1月8日 ディファ有明
⑥杉浦(片エビ)谷口
⑤潮崎(体固め)青木
⓶鼓太郎・SUGI-0石森・RONIN
①斎藤(片エビ)平柳
○2012年1月15日 後楽園ホール
⑦小橋・森嶋1-0潮崎・谷口
④鼓太郎・青木1-0中嶋・梶原
⓶石森(片エビ)平柳
○2013年1月6日 後楽園ホール
⑦谷口(体固め)杉浦
⑤ヨネ(反則)平柳
この時期こそが、ノアの新人育成の「暗黒時代」と言えるでしょう。
何せ、新人デビューが一切なく、デビュー選手なしの空白期が丸7年まで
伸びてしまったのですから。
しかも、生え抜きの有力選手だった潮崎、鼓太郎、青木が、秋山と共にノアを離脱してしまい、残されたのは谷口、平柳のみという惨状に。
谷口は2012年にKENTAプロデュースにより、覆面の「マイバッハ谷口」に生まれ変わり、多少活気づいたものの、人材不足を埋めるには到底いたらず、ノアは他団体からの若手移籍を促進させるしかありませんでした。
<2014年~2017年>
○2014年1月5日 後楽園ホール
⑥永田(反則)谷口
④高山・大原・平柳1-0丸藤・中嶋・石森
①拳王(ラクダ固め)熊野
○2015年1月10日 後楽園ホール
④高山・斎藤・平柳1-0谷口・拳王・大原
①小川(体固め)熊野
○2016年1月9日 後楽園ホール
⑦杉浦・みのる1-0丸藤・谷口
⓶拳王・大原・北宮1-0小川・石森・熊野
①斎藤・平柳1-0ストーム・清宮
○2017年1月7日 後楽園ホール
⑥<GHCタッグ>潮崎・谷口1-0丸藤・小峠
③原田(片山ジャーマン)清宮
①小川(ラクダ固め)熊野
2013年に7年ぶりの新人、熊野がデビューしたものの、力不足は否めず。2015年にデビューした友寄志郎は怪我で引退と、苦戦が続きます(平柳も2016年に引退)。
移籍組の拳王、原田、大原、さらにはHAYATA、YO-HEY、タダスケが、育成苦戦の穴を埋めた感じでしょうか。
しかしそんな中で2015年、いかにもノアらしいバランス感を持った清宮海斗がデビューしたことは、大きな福音でした(潮崎以来11年ぶりのエース候補のデビューと言っていいでしょう)。
さらには潮崎もノアに復帰し、苦闘の中にも少しの光は見えた時期でしょうか。
<2018年~2022年>
○2018年1月6日 後楽園ホール
⑧<GHC>拳王(KO)清宮
⑥丸藤(反則)谷口
⑤中嶋・北宮1-0潮崎・小峠
③Hi69・大原・熊野・稔・諸橋1-0
原田・タダスケ・HAYATA・YO-HEY・LEONA
①小川(体固め)宮脇
○2019年1月6日 後楽園ホール
⑧<GHC>清宮(タイガーS)拳王
⑦<GHCタッグ>谷口・火野1-0潮崎・中嶋
④大原・熊野1-0諸橋・宮脇
⓶<猛進七番勝負>杉浦(ネックロック)稲村
①北宮(片エビ)岡田欣
○2020年1月4日 後楽園ホール
⑩<GHC>潮崎(片エビ)清宮
④拳王・稲村1-0鈴木秀・岡田欣
③谷口・原田1-0ワグナー・大原
⓶YO-HEY・タダスケ1-0諸橋・熊野
○2021年1月4日 後楽園ホール
⑨潮崎・清宮・馳1-0武藤・丸藤・田中将
⑤西村(コブラ)岡田欣
④越中・斎藤1-0ヨネ・谷口
⓶稲葉・稲村1-0征矢・タダスケ
①原田・小峠・宮脇・矢野1-0大原・吉岡・YO-HEY・藤村
○2022年1月1日 日本武道館
⑩<GHC>中嶋(片エビ)潮崎
⑨<ナショナル>拳王(TKO)清宮
⑧杉浦・桜庭・KENTA1-0北宮・稲葉・稲村
⓶ヨネ・斎藤・谷口1-0征矢・タダスケ・仁王
①宮脇・岡田欣1-0藤村・矢野
新人育成の試行錯誤期と言えるでしょうか。
清宮を22歳という若さでGHCヘビー級王者に持っていき、フレッシュ感を打ち出しました。ただ彼に対抗する若い人材はまだなく、独り相撲の状況ではありましたね。
むしろ、ノアカムバックした潮崎が、コロナ期には、絶対的王者としての貫禄を見せました。
宮脇から稲村、岡田、矢野と、それなりにデビュー組は出し、特に稲村の評価は高く、清宮の対角線に立つことが期待されましたが、今ひとつ足踏み。
宮脇も伸び悩み、矢野は好素材ながら、岡田欣と共に女性問題で解雇と、なかなか状況が改善しません。
リング上から紹介された練習生も、デビューできずに脱落が相次ぎました。
そんな中、2022年9月にデビューした小澤大嗣というレスラーが、こうした状況を一変させるとは、誰が予想したでしょうか。
ただ彼のデビュー戦直後のコメントは、今見ると大変に暗示的です。
「ノアの上の人間、全員引きずり下ろす!いつか俺がノアの顔になる!
見てろよ!」
<2023年~2025年>
○2023年1月1日 日本武道館
⑩<GHC>清宮(片エビ)拳王
⑦<GHCジュニア>AMAKUSA(十字架)宮脇
⓶北宮・稲葉・稲村1-0ヨネ・斎藤・谷口
①矢野(フィッシャーマン)小澤
○2024年1月2日 有明アリーナ
⑨清宮・海野・大岩・稲葉・近藤・宮脇6-5
EVIL・成田・裕二郎・SHO・金丸・東郷
⑥杉浦(体固め)憂流迦
④潮崎(体固め)小島
⓪大和田(足折り固め)小澤
○2025年1月1日 日本武道館
⑩<GHC>OZAWA(片エビ)清宮
⑨中邑(体固め)憂流迦
③藤田(時間切れ)小田嶋※1分勝負
⓶潮崎・ヨネ・小峠・大原1-0藤田・石川修・遠藤・めんそーれ
稲村はついにGHC挑戦者として清宮の対角線に立ちます(その後が失速気味で、再修業に向かうことになったのですが・・・)
総合から転向した佐々木憂流迦は、デビュー後すぐにプロレスに対応し、大和田、小田嶋も、最初から安定した試合ぶりを見せ、新人デビュー組が充実してきました。
しかし何と言ってもOZAWAの出現が、衝撃的でした。
ここまで見てきても、ノアのデビュー組は「真面目にひたすら試合内容で見せていく」という、キャラ性のない、三沢小橋タイプのレスラーが大半を占めていました。
そこに突然「OZAWA」なのですから。
彼はただ単に「ノアでは珍しいヒールキャラのレスラー」というだけには、とどまりません。プロレス全団体を見回しても、彼ほどの喋り、パフォーマンス、試合中の小ずるい駆け引き・・・をできる選手はいないと言っていいでしょう。
しかもその身体能力、飛び技のキレ味は絶品で、「ヒールでありながら、ヒールを超えたダークヒーロー」という唯一無二の選手になってしまいました。
しかも、それがまだデビューたった2年4か月の選手だという事実。
いったいこんな才能が、どこでどうやって現れたのか?
それもノアで?
いくら考えても、その答えは出てきません。
ノアが変わったのか。OZAWAが変えたのか。
ノアには見てきたように、様々な育成の失敗があったと思いますが、逆に言えば、その反省を生かし、新しい方向性に目覚めた可能性もあります。
そしてOZAWAにも、「ノアを変えたい」という意図は、始めからあったのかもしれない。器械体操やブレイクダンスをやっていたOZAWAは、その気になれば、数々の空中殺法を披露できたはずです。
けれども彼は、しなかった。
それが能動的に「しなかった」のであれば、いつかその宝刀を、最も効果的な舞台で披露するように、計算していたことになります。
逆に、上からの命令で「できなかった」のであれば、これはこれで、彼の中のダークなマグマを燃えさせる契機になったでしょう。
いずれにせよ、OZAWAは、「ノアで新人が出てこない」という現実をしっかりと認識し、疑問を持ち、(清宮を攻撃したことからわかる通り)そのこと自体をストーリー化、アングル化したのです。
そして、その壁を壊す人間は自分であると、規定した。
この虚実を操るセンスが、やはり常人離れしていると思いますね。
そしてもう一つ。このアングルは、一見攻撃対象になっている清宮にも、大変なメリットがあるということを、指摘しておきたいです。
彼自身、新人育成の失敗には、自戒があったでしょう。自分の対角線に立つ人材が出てこないと困るのは、誰よりも清宮自身なのですからね。
しかし彼は今ついに、その人材を得たのですから。
今のところはOZAWAが一方的に輝いていますが、いつか必ず、清宮が
輝き返すターンがやってくると思う。
オカダカズチカに顔面蹴りをかました時のような、客をドン引きさせるような、何かをね。
清宮もまたダーク・ヒーローになる瞬間を、私は期待しています。