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ゴジラ映画と同時代のライバル映画

ゴジラも今年で生誕70年です。何度も中断期間はあったものの、最も長期にわたって製作されているシリーズ映画と云っていいでしょう。
これだけ長きにわたると、ゴジラ映画が興行合戦を繰り広げたライバル映画も、すっかり様変わりしています。「ゴジラはどんな映画と戦ってきたか」。そこから日本映画興行の変遷が見えるのではないでしょうか。
ということで、ゴジラ映画がその年の興行ランキングベスト10入りした
年の、他の映画の顔ぶれを、紹介していきたいと思います(年代ごとに1つの年を選びました)

〇1954年(昭和29年)

1位 君の名は・第三部    3.3億円(以下配給収入)
2位 忠臣蔵・花の巻雪の巻  2.9億円
3位 七人の侍        2.6億円
4位 紅孔雀         2.4億円
5位 二十四の瞳       2.3億円
8位 ゴジラ         1.5億円

1954年は、日本映画が質量ともにピークを迎えたと云っていい年です。
(『七人の侍』と『ゴジラ』が同じ年の作品というだけで、もう歴史的に凄いわけですが・・・)。ですから『ゴジラ』でさえ8位なわけですが、これはそれだけ超大ヒット作品が並んでいたということでしょう。
ランキングを見ると、日本映画史上の名作と、後世には残っていない娯楽映画が共存していて、ある意味当時の日本映画の懐の深さが伝わってきますね。

1位の『君の名は』は、ラジオドラマの人気を受けて製作され、大ブームを巻き起こした作品ですね。『忠臣蔵』は松竹オールスター映画ですが、GHQによって規制されていた「忠臣蔵」というタイトルが、戦後初めて使われたということで、この2つの大ヒットは理解できるのですが。

しかし4位の『紅孔雀』って何なんだ?と思うと、これが実に興味深くて。ラジオドラマのヒットを受けて東映が中村(萬屋)錦之助主演で製作した伝奇時代劇なのですが、完全に子供向けの中編映画として製作されていて、冬休みの子供たちに大ヒットしたという作品なのです。
これと『笛吹童子』の成功に味をしめて、東映はこの後、テレビのヒットを受けて『月光仮面』や『隠密剣士』劇場版などを次々と製作し(映画他社はテレビなど全く無視していた時代でした)、それは自社の『仮面ライダー』の劇場版制作へとつながり、今日にいたっているのです。
またこの流れから『東映まんがまつり』のようなアニメ作品フェアが生まれ、そこから『ドラゴンボール』『ONE PIECE』といった作品の劇場版がスタートしていった事実もあります。
いわば、今現在の日本映画興行の主流となっている「若年層向けのメディアミックス作品」のルーツは、遡ればこの『紅孔雀』にあったと言っても過言ではなく、それが『ゴジラ』公開と同時期だったことは、何とも意味深いことだと思うんですね。

なお、『ゴジラ』には当時、朝日新聞を始めとする新聞各紙から、手厳しい批評が寄せられましたが、それは逆に当時『ゴジラ』があくまでも、一般映画として見られていたことの証でもあるでしょう。

〇1962年(昭和37年)

1位 天国と地獄        4.6億円
2位 花と竜          3.6億円
3位 勢揃い東海道       3.5億円
4位 キングコング対ゴジラ   3.5億円
5位 宮本武蔵・般若坂の決斗  3.0億円

高度成長真っ只中の1962年、すでにテレビの台頭は目立っていましたが、まだまだ日本映画には国民的娯楽の雰囲気がありました。
黒澤明の大作『天国と地獄』は1963年の公開ですが、年度別集計のためか、この年のランキングに入っています。『花と竜』は石原裕次郎主演の任侠モノ、『勢揃い東海道』は東映のオールスター時代劇、そして中村錦之助の『宮本武蔵』と、娯楽映画としての時代劇は圧倒的に強く、石原裕次郎も
マネーメーキングスターのトップを走っていました。
ゴジラ映画は、東宝創立30周年記念作品として、7年ぶりに復活し、アメリカの大スター、キングコングと対決。初代の怨念性を微塵も感じさせない、怪獣娯楽映画として製作され、結果としてゴジラ映画の最多観客動員数を記録しました。併映がザ・ピーナッツ主演の青春歌謡映画『私と私』なので、広くファミリー層に訴える作品として、位置づけられていたのでしょう。

〇1972年(昭和47年)

1位 男はつらいよ・寅次郎夢枕    9.3億円
2位 昭和残侠伝・破れ傘       5.7億円
3位 新網走番外地・嵐呼ぶダンプ仁義 4.7億円
4位 関東緋桜一家          4.5億円
5位 地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン 3.9億円

70年代に入り、映画会社が次々に倒産し、日本映画は斜陽の時代を迎えていました。ゴジラ映画ではヒットの部類に入らない『ガイガン』が5位に入っていることも、ある意味斜陽の証でもあります。
そんな時期に日本映画を支えていたのが、寅さんであり、『網走番外地』『昭和残侠伝』の高倉健でした(『関東緋桜一家』は藤純子の引退作です)。並ぶ顔ぶれから見ると、この時期の日本映画は完全に男性客に支えられている感じですね。女性層、若者層、ファミリー層が失われた感じです。
『ガイガン』は東宝チャンピオンまつりという、子供向けの作品を集めた形態の中の上映でしたが、当時はそれがゴジラ映画の生きる道でした。

〇1985年(昭和60年)

1位 ビルマの竪琴         29.5億円
2位 ゴジラ            17.0億円
3位 乱              16.7億円
4位 Wの悲劇/天国に一番近い島  15.5億円
5位 男はつらいよ・寅次郎真実一路 12.7億円

70年代後半から80年代、角川映画を中心に、メディアに集中的にプロモーションする戦略が発達し、その対象となる日本映画は大ヒットする流れが生まれました。その角川映画の薬師丸ひろ子、原田知世の主演二本立て、フジテレビが出資した『ビルマの竪琴』、そして日仏合作の黒澤明『乱』らが
並ぶ時代、ゴジラは70年代の子供向けとは違う、一般向け作品として復活しました。
そこに至るには、空白期間での再上映によるマニア人気の高まりといった背景もあり、大々的なプロモーションも展開されましたが、肝心の作品自体がゴジラの魅力を掴みきれていず、想定されていたより興行が伸びず、不評に終わりました(『ゴーストバスターズ』41億『グレムリン』32億と「3G」決戦と言われていたので、配収17億では物足りなかったのです)。

〇1993年(平成3年)

1位 ゴジラVSモスラ         22.0億円
2位 REXー恐竜物語ー        22.0億円
3位 水の旅人 侍KIDS       20.3億円
4位 ドラえもん のび太とブリキの迷宮 16.5億円
5位 男はつらいよ・寅次郎の青春    14.5億円

84ゴジラは不評でしたが、平成ゴジラシリーズに入ると、作品評価の高い『VSビオランテ』、人気怪獣を復活させた『VSキングギドラ』で
支持を伸ばし、ついにこの、女性人気の高いモスラを登場させた作品で、
ゴジラ映画は初の年間ランキング1位に輝きました。
このヒットは、昭和ゴジラを見ていた親世代と、初めてゴジラを見る子供世代の、二世代が一緒に見たことが大きく、ネオ・ファミリー映画現象と云っていいものでした。
この年ヒットした『REX』『水の旅人』もファミリー対象の作品でしたし、何かこの時代を象徴するものだったのかも知れません。

〇2002年

1位 猫の恩返し     (この年から興行収入)64.6億円
2位 名探偵コナン・ベイカー街の亡霊      34.0億円
3位 ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃 27.0億円
4位 劇場版ポケットモンスター         26.7億円
5位 ドラえもん のび太とロボット王国     23.1億円

2000年代に入ると、もはやアニメ勢がランキングの上位を占める
時代に突入します。ジブリ、コナン、ポケモン、ドラえもん。黒澤明や
健さん、寅さんと戦っていたゴジラは、新たなる敵に包囲された感じです。
実際、この前年の『×メガギラス』では興行成績を落としていました。
そのため、この年の上映ではアニメの『とっとこハム太郎』が併映となる事態となってしまいます。平成『ガメラ』シリーズで、リアルな怪獣映画路線を作った金子修介監督を招いてそれかよ、という声もあったのですが、結果として作品は、この時期では最大のヒットとなりました。
とはいえ、ゴジラ映画のターゲットが再び低年齢層化していく、いかざるを得ない、嫌な予感を抱かせたことも事実です。

〇2016年

1位 君の名は。                 250.3億円
2位 シン・ゴジラ                 82.5億円
3位 名探偵コナン・純黒の悪夢           63.3億円
4位 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン 55.5億円
5位 ONE PIECE FILM GOLD    51.8億円

シネコンが普及して、アニメ映画の興収はさらに大きな数字になっていきました。
アメリカ版のヒットを受けて、12年ぶりに国内製作されたゴジラ映画『シン・ゴジラ』は、『エヴァ』の庵野秀明を起用したもので、その意味でクロスカルチャー的な企画でした。
この作品はゴジラを通して日本の政治官僚体質を描いた作品として、社会的話題を呼び、一般層を呼び込み大ヒットを記録しました。これまでの製作者では最もマニア的であるはずの庵野氏が、それを成し遂げたのです。誰のためでもなく、自分のためにゴジラを作るというこだわりが、それを可能にしたのでしょうか。
しかし、その『シン・ゴジラ』を持ってしても、この年の興収1位は取れず、首位に立ったのはアニメ作品『君の名は。』。ゴジラは何と、同名の作品に、62年の時を経て、再び敗北してしまったのです・・・

〇2023年

1位 THE FIRST SLAM DUNK   158.7億円
2位 名探偵コナン・黒鉄の魚影          138.8億円
3位 君たちはどう生きるか             88.4億円
4位 キングダム 運命の炎             56.0億円
5位 ゴジラ-1.0                55.9億円

そして2020年代。状況は2010年代から続き、アニメと漫画の実写化作品が上位に並びます(『コナン』の興収が10年ごとに倍増していて驚きますが)。
山崎貴監督が手掛けたゴジラは、もちろんCGの巧みさということもあるのですが、それ以上に、全く一般向けの人間ドラマとして製作されているのが、かえって異色でした。ゴジラ映画というジャンル性を極めて、その中から一般に波及する効果を生み出していった庵野氏とは逆に、一般映画のフォーマットの中で、ゴジラというモチーフを生かしていたのです。
歴代の監督たちも、本当はそのどちらかをやりたかったと思いますが、当時の事情でできなかった。しかし今の時代は、そうした徹底的なやり方で、作品的に突き抜けていった方が強いのでしょう。いかにもジャンル映画的なアメリカ版ゴジラより、庵野、山崎の作品の方が、ヒットしているのですからね。

「君の名は」、忠臣蔵、黒澤明、裕次郎、健さん、寅さん、角川、フジテレビ、ジブリ、ドラえもん、コナン、『君の名は。』、ワンピース、スラダン。
ゴジラ映画のライバルの顔触れは様変わりし、ゴジラ映画を見る客層も、
一般層(初代)からファミリー層(キンゴジ)、子供向け(チャンピオンまつり)、再び一般層(84ゴジラ)、ファミリー層(平成ゴジラ)、若年層(ミレニアム)、そして三度び一般層(シンゴジ)・・・と、目まぐるしく変化していきました。
終始支持層が一貫している他のシリーズとは大きく違うのがゴジラ映画の特徴です。
反面、だからこそ、多くのライバルたちと戦って、生き抜いてこられたのかも、しれません。

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