LAジャズオールスターWCGDが満を持して放った「宇宙旅行時代のディスコミュージック」で星空の彼方へ。『Resistance(2018)』 / brandon coleman
スペースXの宇宙旅行プランは2024年現在で1人約5500万ドル(日本で約85億円ぐらい)とのことなので、到底一般人に手が出せるような価格ではなく、0を二つ省いたとしてもまだまだ目ん玉が飛び出る額である。
宇宙旅行が普通になるのは当分先のことだろうが、今回は、音楽の力で一足先に宇宙と星空へ私たちを連れ出してくれるディスコファンクの大名盤、ブランドン・コールマンの『Resistance』をご紹介。
ブランドン・コールマン(brandon coleman)は、WEST COAST GET DOWN(通称WCGD、以下同じ)の中核メンバーとして知られるキーボーディストである。
2006年、ロサンゼルス市内の高校生達のための課外授業(放課後プログラム)として、音楽教師レジー・アンドリュースによって結成されていたMulti-School Jazz Band(MSJB)に参加していたのが、当時それぞれが別々の高校に通っていたブランドン・コールマン、カマシ・ワシントン、スティーブン・ブルナー(後のサンダーキャット)、ライアン・ポーター、マイルズ・モズレー、トニー・オースティンら後のWCGDの主要メンバーたちである。ちなみに実はThe Pharcydeの面々もレジー・アンドリュースの元生徒であり、LAでレジーは「伝説の音楽教師」として知られている。
MSJBで初めて対面した彼らは、ジャムセッションを経て、ロサンゼルス市主催のコンサートにて演奏を行い、全員が高校を卒業した2009年より正式にジャズグループ「WEST COAST GET DOWN」として結成され、アートスペースやカフェ、ジャズクラブなどで演奏活動を始めるようになる。
WCGDはライブ活動の傍ら、2011年12月に午前9時から午前2時まで30日間連続でセッションを行い約190曲を録音する、という千日回峰行みたいな荒業をおこなって楽曲をストックし、メンバー個々の名義のアルバムとしてそれらの楽曲を発表し始める。
ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ケニー・バレルといったジャズジャイアンツ達だけでなく、スティーヴィー・ワンダー、アース・ウィンド&ファイアー、ローリン・ヒル、ベイビーフェイス、エリカ・バドゥ、スヌープ・ドッグ、チャイルディッシュ・ガンビーノやフライング・ロータスに至るまで、WCGDのメンバーそれぞれが錚々たるアーティストたちとの共演や客演やバッグバンド業を行っており、その実力は業界内ではすでに折り紙つきだったのだが、とりわけWCGDの名が一躍世に知れ渡ったのはケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly(2015)』への参加だった。それと前後してカマシ・ワシントンの『Epic(2015)』、サンダーキャットの『Drunk(2017)』などの話題作が続々とリリースされ、WCGDはロバート・グラスパーと並ぶ「現代ジャズシーンの最前線」として世界中に認知されることとなった。
WCGDは、メンバー各々が強烈な才能と個性を持ちながらも一つのシーン(集団)として「LAジャズ」という新たな潮流を牽引するオールスター集団であり、「ジャズのウータン一族」とも称されている。
WCGDのメンバー達が生み出す「LAジャズ」作品は、「これってジャズなの?」と疑問に思うぐらいに一般的なモダンジャズのイメージとは幾分かけ離れていて、従来のビバップのような複雑で掴みどころのないアドリブタームの畳み掛けではなく、若い世代をフックできるグルーヴ感が前面に押し出されているのが特徴である。
WCGDのメンバーは旧来のモダンジャズに要求されるような高度な演奏技術を持ち合わせながらも、「ジャズはこうあるべき」みたいな自己制約から解放された新世代のジャズマン達であり、プレモダン/モダンジャズ、スピリチュアルジャズ、フュージョン、R&B、ソウル、ディスコ、ファンク、ヒップホップといった音楽群のシームレスな融合を模索し、「ブラックミュージックの総決算」とも呼ぶべき音楽を生み出し続けている。
2018年に発表された『Resistance』は、ブランドン・コールマン名義としては2枚目のアルバムとなる。カマシ・ワシントンやライアン・ポーターを筆頭としたWCGDの精鋭達が集結し、フライング・ロータスの『Brainfeeder』よりリリースされた。
Resistance(2018) / brandon coleman
ブランドンはキーボーディストであると同時にヴォコーダーの名手でもあり、このアルバムで特に印象的なのはヴォコーダーを駆使したパトリース・クインの歌声である。
その歌声がムーグベースやライアン・ポーターらのホーンセクション、絢爛なストリングスアレンジと混ざり合って、アルバムジャケットのイメージそのままに、煌めく星空に吸い込まれていってしまいそうなグルーヴィーな高揚感を見事に表現しており、「近未来のジャズ」を地で行くような大傑作ブラックコンテンポラリーアルバムに仕上がっている。
ジャズの精神性やフュージョンの骨子がベースにありながらも、聴き心地はダフト・パンクのようなディスコファンクに近くて小難しさとは無縁なので、「ジャズはちょっと…」という人すらをも星空を探しに家の外へ駆り出させるような魅力がある。
キャンプ泊で星空を見上げる時のような、アウトドアトリップにピッタリのアルバムである。
寒くなってきた時期にオススメしてすみません。
来年のキャンプで是非。