見出し画像

「俺らは悪趣味」のアイデンティティで突っ走る!過激だけどメタでユーモラスな「サイコビリー」のススメ。

パンク愛好家を「パンクス」、メタル愛好家を「メタラー」と呼ぶように、サイコビリーの熱狂的リスナーのことを「サイコス」と呼ぶ。

このヘッズ(愛好家)達の愛称は、音楽的嗜好でリスナーをざっくりとグルーピングするのに便利だし、他にも「Bボーイ」「クラバー」「ドルオタ」「クラオタ」「スキンズ」など、それぞれにキャラクターやそれっぽい特徴があって、敵対したり、友好的だったりする。

実はこのヘッズ達の中で、凶暴さで群を抜いていると言われているのが「サイコス」である。「パンクス」や「Bボーイ」や「スキンズ」を差し置いて、である。
※「スキンズ」については『アメリカン・ヒストリーX(1998)』をぜひご覧ください。傑作です。

「サイコビリー」というジャンル名自体、あまり聞き馴染みのない人が多いと思うが、上記のようにヘッズの愛称がある通り、いつの時代も流行り廃りに関係なく一定数の熱狂的リスナーを抱えている音楽である。

サイコビリーの「サイコ(Psycho)」はその言葉通り「変人」「狂人」といった意味で、そこに音楽的なベースとなるロカビリー(rockabilly)の「ビリー(billy)」をくっつけて「サイコビリー(Psychobilly)」。

その誕生は80年代イギリス、そして本場は現在もイギリスだが、ヨーロッパ各国、日本においても熱心なシーンが昔から存在する。

「サイコビリー」という用語自体がパンカビリー、ゴスビリー、ラスティックなどの派生的なサブジャンルの多様な音楽性を包括するので一概には言えないが、わかりやすく単純な音楽的特徴だけで言えば、「高速化したプレスリー」といった趣である。一貫して特徴的なのはウッドベースのスラップ奏法の多用である。

そしてサイコビリーというジャンルで音楽性と同じぐらい重要なのが外見的な「スタイル」である。
頭部の全体を刈り上げて頭頂部の髪だけを残す「サイコ刈り」が代表的で、鋲ジャンコーデ、タトゥーやボディピアス、さらにはホラーメイクを含むオカルティックな装飾など、いかに気合いが入った「サイコ(Psycho)」っぷりを貫徹できるかも、そのバンドの人気や魅力の一要素となる。

またサイコビリーには「レッキング」という独自のモッシュカルチャーがあり、これはライブ中に観客同士が笑顔で殴り合う(!)という理解し難いものである。マジかよ笑!

前述のように音楽性と同じぐらい「スタイル」を重視するサイコビリーは、タトゥーイング、ボディピアッシング、ボディサスペンション、スプリットタンといった身体改造カルチャーやゾンビ/ゴア/スプラッター映画、昔の日本の雑誌で言えば『BURST』とか『危ない1号』とか、その辺の「悪趣味系」文化との親和性が高い。
単純なガタイや気合いの入り具合だけならパンクスやスキンズ、Bボーイらに劣るかもしれないが、観客同士でニコニコ殴り合ったり、身体の至る所に嬉々としてピアッシングする「血や痛みを好む」みたいなひっくり返った嗜好性は他の音楽ヘッズ達には理解し難く、その辺りが「サイコスが最も凶暴」と言われる所以である。

しかしながら反面、サイコビリーの特徴としてさらに重要なのは、ジャンルコンセプト自体に「メタなユーモアを含んでいる」ことである。
というのもサイコビリーのミュージシャン達は、「自分たちの悪趣味性を俯瞰的に演じている」側面も大いにあって、「俺らはゾンビもゴアも身体の痛みも大好きなお馬鹿で下品なサイコ野郎だぜグヘヘへへ」みたいな自己演出、セルフロデュースによってバンドの個性やキャラクターを養っていたりする。
そこを理解した上で、「サイコス」とまでは呼べないライトリスナー層にとっては鋲ジャンやサイコ刈りやホラーメイクやエルヴィスっぽい歌唱法も含めて「ハロウィンの仮装を楽しんでる感じ」でサイコビリーと触れ合うのがベストな距離感の付き合い方だったりする。深入りするとレッキングされるから笑。

というか、スピードを増せば増すほど重厚感も比例して増していくハードコアやメタル系のハイテンポなバンドサウンドとは違い、いい意味でスッカスカでカラッカラしたままスピード感を保っている生音の音楽というのは実はサイコビリー以外にあまり見当たらず、そもそも音楽として独自性が高く、単純にかっこいいのである。

今回は、特に私が推している80年代黎明期のUKサイコビリーバンドをご紹介。

the best of the krewmen(2006) / The Krewmen

1982年にロカビリーバンドとして結成したのち、85年にサイコビリーバンドに転身したUKサイコビリーの雄、クリューメンのベスト盤。
サイコビリーバンドとしては80年代中期のデビューなのでメテオスやグアナ・バッツら第一世代よりはやや後輩。ロックンロールの重たい要素を削ぎ落としたロカビリーテイスト強めな正統派でソリッドなオールドスクールサイコビリー。
この上なくメロディックでスピーディで変態的。「サイコビリーって何から聴けばいいの?」と友達に聞かれたまずこのアルバムをオススメしておけば間違いナシ。


Best Of The Batz(1988) / Guana Batz

1982年結成。サイコビリー第一世代を代表するサイコビリーバンド、グアナ・バッツのベスト盤。
同じく第一世代、サイコビリーの創始者といわれるメテオス(Meteors)と比べると、重厚感を全く感じない、もはやアコースティックみたいなスッカスカ感。この力の抜けたやる気のないヘロヘロしたノリとスピード感とのギャップがグアナ・バッツの最大の魅力であり、私にとってのサイコビリーの勘所。


THE BEST OF KLINGONZ(1996) / The KLINGONZ

1985年結成。スタイルにしてもパフォーマンスにしても「品性」という言葉をどこかへ置いてきてしまったかのような「最恐」っぷり、突き抜けっぷり、おバカっぷりで世界中のサイコスから支持を受け続けているクリンゴンズのベスト盤。実はメンバーが入れ替わりつつ現在も活動中(たぶん)。もはやハードコアかと見紛うほどのスピード感で疾走するノンストップスラップベース。超高速サイコビリー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?