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業界の常識を覆す、玄品独自の人材育成体制に迫る
「ふぐ料理を世界へ広める」をビジョンに掲げ、シンガポール店については先日リニューアルオープンするなど、海外展開にもさらに力を入れている玄品。
現在も事業拡大のため積極的に人材採用を行っていますが「玄品」の店舗に配属される新入社員に取得を勧めている資格があります。それは、「ふぐ調理師免許(※)」です。これまでは自治体の講習や店舗での実践を経て、資格試験を受験してもらっていましたが、今年から社員向けに座学編・実技編の2講座を社内開講しました。
※各都道府県によって「ふぐ取扱者」「ふぐ処理師」など、呼び名が異なります。
今回は、品質管理・内部監査部門の春野 涼子(はるの りょうこ)さんに、お話を伺いました。
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普段は、全社の品質管理を担当し、普段は社内で衛生管理の講習などを行っている春野さん。加えて「ふぐ調理師免許」の座学講座の講師や受験者のサポートを行っています。
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【ライティング】
株式会社ストーリーテラーズ
ストーリーライター ヤマダユミ
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入社後まもない新人にもふぐを捌かせる
玄品では、以前から「社員全員が『ふぐ調理師免許』を取得できる環境」が整えられてきたといいます。
「新入社員は入社してすぐにふぐを捌く練習が始まるので、必要な技術を早く習得できます。また、ふぐの調理に携わらない部署の社員でも、免許取得に挑戦できるんですよ」
と話す春野さん。
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入ったばかりの新入社員に、すぐにふぐを捌かせるとは本当なのでしょうか。また、業務で免許を必要としない社員にも挑戦の場を与えているのは、一体なぜなのでしょう。
「食品衛生法」や「ふぐ処理に関する条例」の理解を講座でサポート
そもそも、毒魚であるふぐを店舗で提供するには、各都道府県ごとに定められた「ふぐ調理師免許」の取得が必須となります。免許を取得するためには、学科と実技の2つの試験を受け、合格する必要があるのです。
学科試験ではふぐに関する知識のほか、「食品衛生法」・「ふぐ処理に関する条例」の理解度が試されます。実技試験では食べられる部分と毒のある部分の鑑別や、処理技術が問われるのです。
以前は都道府県ごとに免許の取得方法が異なっており、大阪では1日講習を受ければ免許が取得できました。しかし、全国の認定基準を平準化させる動きが高まり、昨年度から学科・実技の2つの試験で認定する制度となったのです。そのため、春野さんは学科試験の対策講座を担当しています。
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「学科試験のうち、特に受講者がつまずきやすいのは『食品衛生法』だと思います。法律であるがゆえに、馴染みのない言葉がたくさん使われていて、一見すると内容が難しく感じられるからです。
でも、記載されていることは、飲食店を運営する上では当たり前のことばかりなんですよ。食中毒を予防するために『手洗いしましょう』とか、『包丁・まな板をきれいにしましょう』とか。
私は受講者にわかりやすく、噛み砕いて解説することで、理解を深めるサポートをしています」
「ふぐ調理師免許」の取得で、キャリアアップの可能性を広げる
実は「ふぐ調理師免許」は、「調理担当者全員が取得しなければならない」というわけではありません。免許を持っていなくても、店舗に一人でも免許保有者がいれば、その監督下の元でふぐを捌けるからです。
しかし、玄品は店舗に配属される社員には、できるだけ免許を取ってもらうよう働きかけています。それは、「社員本人のキャリアの選択肢を広げたい」という想いがあるからです。
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「玄品には、『店長を目指したい』『裁量を持って色々なことにチャレンジしたい』というやる気溢れる若手社員が多くいます。しかし、『新店舗の店長を選出する』『責任者として人事異動してもらう』タイミングで、免許を持っていない社員は残念ながら候補者にはなれないこともあるんです。
社員自身のキャリアアップの可能性を潰さないためにも、また組織として柔軟に対応できる体制を作るためにも、『ふぐ調理師免許』の取得を積極的に勧めています」
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その言葉通り、社内では免許取得を促進する社風・体制が整っています。
玄品には、「調理の経験がない人・これまでに包丁を握ったことがない人」でも、やる気さえあれば知識や技術を教えてもらえる社風が根付いています。また、ふぐを捌く道具が一式揃っている上に、毎日安定してふぐが入荷するため、練習するにはもってこいの環境が整っているのです。
「日本料理界では、『入社したばかりの新人がふぐに触れる機会は滅多にない』と聞きます。しかし、玄品ではそんなことは一切ありません。年に1度しか実施されない『ふぐ調理師免許』の試験を見据え、入社直後からふぐを捌く練習を始めてもらいます。
何事もやってみなければ上達しない。そのことをわかっている先輩社員がサポートするので、思い切ってどんどん練習できるんです」
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玄品には、職人の世界ならではの厳格な上下関係はありません。「目で見て盗め」ではなく、立ち方や包丁の握り方などを一から丁寧に指導するため、必要な技術を早く習得できるのです。
さらに、「ふぐ調理師免許」を取得できるのは、店舗社員だけではありません。普段はふぐの調理とは無縁の部署の社員でも、本人が希望すれば講座や実践練習のチャンスを与えてもらえるのです。
「社員本人が『免許を取得したい』といえば、いつでも挑戦できる環境が整っています。ふぐを捌く練習は店舗でもいいし、本社に隣接するセントラルキッチンでもいい。実際に、今年は経理部の社員がチャレンジしています」
と春野さんは笑顔を見せました。
また、玄品には外国籍の社員も多くいますが、ほかの社員と同じく免許取得のサポートを行っているといいます。
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「セントラルキッチンには、インドネシア人などの外国籍の社員がたくさんいますが、みんなきれいにふぐを捌けるんですよ。なかには、日本人スタッフより早く『てっさ(ふぐ刺)』を作れる人もいます。玄品では、入社後の本人の努力次第で、いくらでも成長できるんです。
ただ、免許を取得するためには、技術だけでなく日本語の理解力も問われます。私は各個人の理解度に合わせて、適宜サポートしています。母国語に翻訳、とまではいきませんけれど…(笑)」
そう語る春野さん。取材中、外国籍の社員に丁寧に・わかりやすく対応する様子が印象的でした。
「主体性ある進化する個人を育てる」を体現する
玄品の企業理念に、「主体性ある進化する個人を育てる」という言葉があります。会社の真の力は、働いている従業員一人ひとり。会社を成長させるためには、「人」を育てることが必要不可欠なのです。
新入社員・ベテラン社員・外国籍の社員。その誰もを育て続けることは、玄品にとってはごくごく当たり前のこと。その姿勢は、社員の誰もが『ふぐ調理師免許』を取得できる体制作りにも現れています。
とある新入社員は、ふぐ1匹を捌くのに1時間かかっていたといいます。最後の方はふぐの身がボロボロになり、お世辞にも上手いとはいえない包丁捌きでした。しかし、16年が経った今、彼は店長としてお店を切り盛りしています。諦めずに腕を磨き、「ふぐ調理師免許」を取得したからこそ得られたキャリアでした。
「主体性ある進化する個人を育てる」
会社の軸となる「社員を大切にする」という価値観を体現するため、玄品はこれからも人材育成に力を注ぎ続けます。