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弟犬ジョンとの山登り

  林家 源平

弟犬ジョンと僕の大冒険

愛媛に落語をと考え、師匠三平のような噺、サザエさんのような噺を考えると故郷を思い出さずにはいられない。

愛媛で育ってきた多くの出来事が自分がしてきた勉強で、それが今の自分を支えているような気がする。毎日毎日起こる出来事を通じて、今の落語がある。

僕の創作落語は、このような勉強から得たものから、着想され、そして、練り上げられている。だから、四国の落語、サザエさんのような落語を考える時、思い出と江戸落語とに思い馳せ、筆をとるのである。

ふと、足元に愛犬だったジョンがいるような気がしてくる。ジョンがお帰り、今日はどうだった。元気に噺をしてきたの?っている様な。そんな気持ちが蘇る。

ジョンは父と母とよく畑に行って、手伝いをしているような賢い犬で、僕が帰ってくると、いつも変わらず、尻尾をぐるぐるに回しながら、大きな声で、おかえり、遊びに行こうぜって言ってくるような、まるで弟のような存在だった。

ジョンはあまり話さない父にもよく懐いてもいた。時には、驚くような行動をする父。息子の僕も驚くようなことが多かった。

こんな父に、口答えもせず、母は一生懸命に働くのであったが、次から次へと子供が大きくなって行くので、百姓の収入では、精一杯であった。

 牛を飼ったり、蚕をかったりと、忙しくなると、父は決まって僕に、

「お前。助けちくれんか。」

と言って来るのでした。

 そこそこに、父と母に負けない位、がんばれるもんだから、

「お前だけが、百姓にむいちょうえ。」

と、おだてながら、僕を使った。

「お前、明日は学校が休みじゃのう、オラ達も明日は、田の仕事はせんけん。山へ木を取りに行っちくれや。」

と、学校から帰って来た僕に言った。

次の日、朝早く起きた父は、長ソデと長ズボン、それに地下足袋、色のあせた軍手を揃えると、今度、ワラをたばねて、その中にボロ布をおしこみ、何ヶ所かをしぼり、先の方を、腰にぶら下げれるように、ヒモをくっつけていた。

 自分が準備した物を、僕に持たせた父は、母に弁当を作らせ、家を出発した。

 弟犬のジョンは、久しぶりに父と僕と遠くへ行くとわかったのか、嬉しそうな顔で僕を見てくる。当時の田舎ではリードせずに弟犬と歩くので、ジョンはこれから起こるかもしれない大冒険に喜びを隠しきれない様子で

「ワン、ワン」

と、吠えながら、父の足元にジャレついていた。
はやく、はやくとジョンは父を急かしている。今日はおもいっきり走り回るぞぉ〜って言ってるようだった。

 父は帽子をかぶり、腰にはワラに布をつめた物、右手にはクワ、これは両方に刃がついている物で、登山で使う、ピッケルみたいなものであった。細長いノコギリには、刀の鞘みたいなものに入れて、腰に差し、身軽に歩いていた。

 一歩遅れて、エガマを持った僕は、まわりに咲いている草花を切りながら進んでいると、

「そうするなや、後で木が切れんけんのう」

と、後にふり向いて、父が注意をした。

手もちぶさたで、トボトボ歩いていたら、ジョンが僕の側で舌を出しながら、まあ気にするなよ。父ちゃんはあんな感じだからさ。ぶっきらぼうなんだよ。わかってんだろうって、ジョンが隣でいいながら、ゆっくりと歩いているので、僕はニヤニヤと笑顔を見せ、知ってるよ。落ち込んでないよ。ジョンは優しいからなあって、ちょっと一緒に話しながら行こうよって、目で訴えたら、ジョンは、甘えるなよ〜、今日はオイラも楽しみにしてたから、思う存分走るんだって、急に走り出して、父を追い抜き、先の方へと、行ってしまった。

 小さな山々を横切り、僕の足がクタクタになって来た頃、

「ここからは、険しい山の中に入るけん。オラから離れるなよ。出て来れんようになるぞ、気をつけんとのう。」

と、言った父は、ワラにつめ込んだ布に、マッチで火をつけて、煙を出し、それを腰にまきつけ、僕の方にも、煙が出る様にしてくれたのだった。

「煙があるとの、動物は近づかんけん。」

と、一言いって、又、先へ進み始めた。

 なる程、ワラの布は、こんな働きがあったのか・・・・と、僕は理解をして、父に遅れまいと、歩いていたら、急にからだが、寒く感じて来た。

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