「営業」ってどんな仕事?
今日は「営業」についてのオヤジの説教。遠くに住む息子くんから、「営業 って何?」と(漠然と)質問されたので、ここで説明してみる。
日本語で「営業」という言葉は、実はさまざまな意味を含む。ただ、職種の説明として扱う場合には、「何かモノ・サービスを売る仕事」という意味でで使われるケースが多いように思う。しかし、すべての仕事は「モノ・サービス」を売って稼ぐことをするのだから、営業はすべての業種に必要不可欠なものだ。
様々なスタイルの営業マン
いわゆる「営業マン」という言葉がよく使われるが、なんだか体育会系で元気が良いイメージが強い。でも、営業マンの全員が体育会系で元気が良いわけでもなく、理系出身で技術的な知識に強い営業マンもいれば、美術系出身でデザインもできる営業マンもいる。扱う「モノ・サービス」の種類に応じて、どういう営業マンのスタイルが適しているのかは異なる。
戦闘民族スタイル
競合する製品・サービスがあるとき、営業マンは「戦闘民族」にならなければならない。例えば、ビール、車、住宅、スマートフォン、保険サービスなど。他に比較検討可能なモノ・サービスがある場合、営業マンは他社の営業マン(あるいは広告)と競争しなければならない。こういう業界の営業マンに必要な素養は、1に体力。2に体力。3に体力、オマケで知力だ。
顧客は、どうやってサービスを選ぶのか?例えば家を買おうという顧客がいたとして、同じエリアで二つの不動産会社AとBに問い合わせたとする。そして、A社もB社もそれぞれ顧客の要望に合わせた物件を提案する。もしも、A社が提案する物件の方が圧倒的にB社の提案よりも優っていて、それでいて安かったらどうだろうか?顧客は何も悩まずにA社の物件を購入するだろう。でも、世の中はそんなに単純ではない。A社の物件の方が少し日当たりが良かったとしても、B社の物件の方が安い、というケースはよくある話だ。
そういう場合、顧客は悩む。そして悩んでいる顧客に対して、A社の営業マンとB社の営業マンが競争して自分の物件を売り込むわけだ。その競争ではもはや、物件の良し悪しや価格は本質的な問題ではなくなる。顧客から見て、どちらの営業マンの笑顔の方が素敵なのか。どちらの営業マンの方が信頼がおけそうなのか。重要なのは、顧客が「どちらの営業マンから買ってあげたいと思うか」である。
世の中に溢れているモノ・サービスのほとんどは、競合製品と大きな区別はない。もしも区別がある場合、それは大きな価格差として現れる。だからほとんどの取引では、顧客が悩みなく購入するというケースは稀である。だからこそ、営業マンが必要となるのだ。これは、決してAIに代替できるものではない。(最近、AIによって営業が要らなくなるという言説が増えているが、少なくとも戦闘民族スタイルの営業マンに限ってそのようなことはない)
また、戦闘民族スタイルの営業マンの競争相手は、競合他社だけではない。競合他社とギリギリの戦いをする以上は、特別な値引きであったり、追加サービスであったり、様々なな付加価値も提案する必要がある。しかし、それは会社の利益を下げることにもつながるので、簡単な話ではない。だから営業マンは、競合と戦うだけではなく、社内に対しても上司や社長を説得し、社内の関連部署に根回しをするなど、全方位で活躍をする必要がある。
一つ付け加えると、戦闘民族スタイルの営業マンは、小さな「社長」である。他社と競争し、社内の調整をし、一つのビジネスを成し遂げていくというスタイルは、社長の仕事そのものであるとも言える。だから、戦闘民族営業マンは給料もどんどん上がっていくし、その給料に満足できなければ独立して自分の会社を作るというケースも多い。もしも君がこういうスタイルが好きだというなら、過労死にならない範囲で頑張ってみてはどうだろうか。きっとお金持ちになれる。
農耕民族スタイル
戦闘民族の対極として、農耕民族スタイルがある。特別な競争がなく、特定の顧客だけを相手にするようなケースだ。製品がユニークで特定の顧客しかいない場合とか、部品の下請けメーカー、不特定多数に提供する廉価なサービスなどの場合、顧客はあまり悩まずに購入するので、営業マンが特別に頑張る、ということも必要はない。
ドラマとかで、「得意先を回ってきまーす」みたいなシーンを見たことあるだろう。得意先が定まっている、ということは既存のビジネスが既にあり、営業に期待される役割はそれを「維持する」ということだ。今後の取引スケジュールの調整や、新製品があればそれの案内など、淡々とこなしていくスタイルが多くなる。淡々と仕事をこなすことから、農耕民族スタイルなのだ。
一つの会社でも、新規開拓をとってくる戦闘民族と、既存ユーザーを維持する農耕民族の2パターンが共存する場合もある。もし、君が淡々と仕事をこなす仕事を望むのならば、農耕民族営業マンを選ぶのも良いだろう。
ただし、ビジネスは常に安定しているとは限らない、ということは忘れないでほしい。技術革新が進んで、得意先がどんどん競合に切り替えていくということもある。ある日突然AIに仕事を奪われるかもしれない。天変地異が起こって畑がダメになってしまったら、狩猟採集社会に戻るしかないということだ。
技術営業スタイル
戦闘民族や農耕民族とは別の軸もある。専門知識や技能を使うか使わないか、という違いだ。顧客によっては、営業マンに専門知識や特別な技能を求める場合もある。
究極的な例をあげると、医師や弁護士だ。医師の中にも、標準的な保険治療だけを実施する病院医師(農耕民族スタイル)もいれば、保険対象外で顧客に選ばれる必要のある自由診療をターゲットにする美容整形医師(戦闘民族スタイル)もいる。
もし君に何か秀でた知識や技能があり、それを活かせる製品・サービスがあるならば、技術営業スタイルの仕事ができるだろう。
例えば、ウェブデザイン会社の営業だ。顧客からホームページを作りたいと言われて、交渉の現場でササっとオリジナルなラフ画を書き、デザインの詳細をその場で詰める。もし顧客がそのラフ画を気に入れば、多少の機能や価格の議論よりもデザインを優先して選んでくれるかもしれない。デザイン系の会社なら、デザインができる営業マンは重宝されるはずだ。
技術営業スタイルで重要になるのは、「差別化」である。他の誰にもできない何かを見つけられれば、それは小さなビジネスでも良い。極端な話、自分と自分の家族を養えるくらいの顧客が見つかるならば、独立して一人だけの会社を作ってもいい。例えば上記のウェブデザインの仕事ならば、ウェブデザインだけを自分が担当し、ホームページ作りは別の会社にアウトソーシングする、ということもできる。
とは言え、「差別化」は簡単な話ではない。一つヒントをあげるならば、2種類の「差別化」を組み合わせると、強み(レア度)が増す。例えば上記のウェブデザインの仕事の場合、別の何かの専門(例えば医療系とか)に特化したデザインができるならば、そのジャンルの顧客には強みを発揮できるようになる。なんでもかんでもできる器用貧乏よりは、一つか二つに特化して自分のアピールポイントを明確にした方がいい。
また、専門知識や技能はAIとの競争でもある。例えばデザイン分野の場合、AIと競争するというよりも、AIをより賢く使いこなすという方が今後は有利になるだろう。時代の変化に合わせて自分の専門性を常にリフレッシュする努力も求められる。
以上、今日のオヤジの説教でした。