植物を育てる(22)by立花吉茂
モチノキ科植物の種子発芽
モチノキ科に属する植物は日本に15~16種野生している。そのうち10種
が常緑で残りが落葉樹である。常緑の種類は、西日本の照葉樹林を構成する
重要なメンバーで、落葉樹とともに庭木としてしばしば屋敷内に植えられる。
これらは、漿果(液果)を結び、小鳥たちは好んで食べ、その糞から発芽し
て繁殖する。しかし、どの木にも果実が実るわけではない。モチノキ属の植
物は雄木と雌木に分かれているからである。その性比を調べてみると、ナナ
ミノキでは雌3に対して雄1の割合であった。これらの種子を蒔いてみたが
翌春に発芽したのはイヌツゲと落葉性の種類だけで、他の種類は1年たって
も発芽しなかった。それで果肉の影響や乾燥、湿り、変温などの発芽条件を
いろいろ変えてみたがだめだった。
2年たったら発芽した
3年計画で12種類の発芽実験をおこなった結果、翌春生えるものと2年後
に生えるものがあることがわかった(図)。すなわち、翌春発芽したものは、イヌツゲ、シマイヌツゲおよびウメモドキ、フウリンウメモドキの4種で、他の種類は翌々年になって高率で発芽した。このような性質の種子は一見成熟した果実のように見えるが、実はまだ未熟であって発芽能力がなく、親木から離れて後に成熟して発芽能力をもつに至るものであって、これを後熟発芽性種子とよぶ。いままでに野生植物の種子発芽の特徴として、①硬実性種子、②休眠性種子、③硬実・休眠性種子の3型あることを紹介してきたが、このグループをくわえて、④後熟性種子、と4型にまとめることができる。
亜熱帯植物か?
その後、沖縄で取ってきたクロガネモチやモチノキが、翌春に発芽するこ
とがわかった。これは、冬が暖かいので、開花後1年間も親木に着いていて
後熟の必要がないからと考えられる。もともとこの仲間は亜熱帯に分布して
いて地球の暖期に北上して内地に分布し、寒さに適応したものの、種子の成
熟にまでは進化していないのかもしれない。
(『緑の地球』91号 2003年5月掲載)