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黄土高原における緑化の意味 by 高見邦雄(GEN副代表)

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 地球環境のために木を植えよう、それが私たちの出発点ですけど、協力の現地ではそこの課題を見極め、地元の人たちの望みと結びつける必要がありました。キーワードは「水土流失」。
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 黄土高原の範囲には諸説あり、面積も異なりますが、山西省の通説では52万㎢で、日本の国土の1.4倍もあります。私たちが通いつづける山西省大同市、河北省張家口市蔚県はその東北端に位置します。
 全体が雨の少ない土地ですけど、傾向として東南部に雨が多く、西北にいくほど少ないのです。大同でも蔚県でも年間降水量の平均は400㎜ほどで、東京、大阪あたりの4分の1。

 雨の降り方に問題が2つあります。1つは季節的な偏りが極端なこと、もう1つは年ごとの変動が大きいことです。今回は前者に注目します。年間降水量の3分の2以上が6月半ばからの3か月に集中し、その他の季節にはほとんど降りません。植物が芽生え育つ春にはとくに降らず、農村では「春の雨は油より貴重」と言います。

 夏の雨は、ときに狭い範囲に短時間の集中豪雨となり、1時間70㎜の雨を私もなんどか体験しました。ワイパーを最高速で動かしても視界がきかず、路肩に車を停めて雨が通りすぎるのを待つしかありません。
 植生の貧しいところにそのような雨が降ると、雨は直接地表をたたき、表土を流します。雨水もそこに留まることがありません。中国では水土流失と呼びます。

 黄土高原特有の景観に浸食谷があります。深さ100mもの垂直の壁をもつ谷であったり、土の固い芯の部分が残され、軟らかいところが削られて大地のシワのようになった谷もあります。夏の雨が刻んだものです。
 それらはみる人を驚かすんですけど、より深刻なのは畑の表土や山の土が失われて土地が劣化し,作物や植物が育たなくなることです。農村にとって死活の大問題で、農民もよく知っています。

 それには黄土の性質も影響しています。黄土は粒径0.005~0.05mmのシルトで、乾燥しているときはスコップの刃がたたないくらい固いのに、いったん耕すと粉になって風に舞い、少しでも水が入るとグリスのように流れます。そのために雨で容易に浸食されるわけです。

 雨が流す土なんて知れてると思われそうですけど、黄河中流の三門峡ダムを通過する土の量は、30年余り前には年間16億トンと言われていました。その土で幅1m×高さ1mの土手をつくると、延長は100万kmを超え、赤道を25周もする。その大部分が黄土高原からの土です。

 黄土高原における緑化の最大の目的はこの水土流失を軽減し、ひいては砂漠化を防止することです。私たちはまず黄土丘陵や山の上部に防護林を造ることに協力しました。植えたのはアブラマツ(油松)とモンゴリマツ(樟子松)で、マメ科のムレスズメ(檸条)やグミ科のサージ(沙棘)を混植しました。

 これらの木々が隣同士で枝葉が重なるようになると、雨は枝葉で受け止められ、土を叩くことなく幹を伝って地表に下り、ゆっくり流れて地中に潜ります。それによって水土流失は大きく軽減されます。

 私たちは小学校付属果樹園を建設して、アンズなどを植えました。果実が稔り、収益がでるようになると、その一部を学校に集めて教育支援にあてることにしたのです。水土流失の軽減に役立つことはマツといっしょです。そのうえに農家収入を安定させ、人材育成にも役立つ一石二鳥三鳥のプロジェクトです。

 予想を上回る効果もありました。マツを植えて20年にもなると、下枝を切り落とすんですけど、それが農村の生活燃料になります。アンズも毎年、剪定が必要で、その枝が同じように燃料になります。マツやアンズで燃料をまかなえると、山の上まで燃料伐採に通うことはなくなります。そうなると人が植えなくても山の上に自然に森林が再生するんですね。そういう例をいくつも目にしました。

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