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経営に活かしたい先人の知恵…その12

◆先人の知恵を活かした二宮金次郎の「地域再生法」◆

 二宮金次郎の地域再生の手法は、先人の知恵を活かしたものだと、私は理解している。金次郎は再生に取り組む前に、その地域を綿密に踏査して、再生計画案を立案するのだが、その際、参考にしたと思われるのが、『礼記』の「入るを量りて出ずるを為す(収入の額を計算し、それに応じた支出を行う)」の教えだ。

 残された資料によれば、金次郎は600を超える地域で復興を成し遂げているが、その仕法(金次郎の手法を意味する)の基本は同じだった。金次郎は、「自分の方法は分度を定めるを根本とし、分度を守ることを第一とする」と言っている。分度とは、昔は身分を固定させる意味で使われていた言葉だが、金次郎の言う分度は、分限(分・それ相応の能力)や収入に応じて一定の支出限度(度)を決め、その範囲内で生計を営み、そこから余剰金を生み出すことを意味している。

 要は、過去の実績から一年間に見込める収入を推測、その範囲内で1年分の支出を限定し、これを厳しく守ることを地域の指導者以下に強いたのだ。しかし、分度を守るだけでは縮小均衡に陥りかねない。そこで次に収入を増やす手立てを考える。江戸時代は、農業が主流だけに、金次郎は、農業での生産振興を図るように地域住民を導いていった。

 金次郎は例外なく、まず真面目に頑張っている村人を表彰することから、仕法をスタートさせるのだが、そのやり方がいい。表彰者の選定は、村人相互の投票によって行っている。上位の得票者には、鍬、鋤、鎌等々の農機具を与え、時には無利息のお金を貸したりもしている。

 なぜ、行いの悪い村人を諭さないで、真面目に頑張っている人を表彰するのかと、弟子に聞かれた金次郎は、次の『論語』の一節を上げて答えている。「正しいことをしている人を登用して、間違っている人の上におけば、間違っている人も正しくなり、心服するでしょう。逆に、間違っている人を登用してしまえば、正しい人も間違いを犯すようになり、国民は心服しなくなります」。

「人は評価基準に準じて行動する」と言われるが、金次郎は、まさに評価基準を明確に示すことで、疲弊した地域を再生したと言える。

 金次郎は、『分度』を定め、緻密な再生計画を作るが、実践するのは、その土地に住む人々だ。いかに計画がすぐれていても、人が動かないのでは復興はあり得ない。金次郎が地域(組織)再生の名人たる所以は、この人を活かして使うところにあると、私は考えている。

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