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経営に活かしたい先人の思想…その2

◆「傲慢症候群」という名の病気◆

「春秋左氏伝」(春秋時代=紀元前770年~紀元前403年)に、「驕りたかぶって、それで亡びないものはいまだかってなかった」とある。また、古代ギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前384年~前322年)は、「若者や金持ちはヒュブリス(ギリシャ神話に登場する女神の名で、傲慢を意味する)に走りやすい。傲慢に振る舞うことで優越感を覚えるからである」と、傲慢を戒めている。

 古代中国、古代ギリシャで、同じように傲慢を戒めているのだから、東洋と西洋の人間に変わりはないようだが、昨今は、傲慢は一種の病気と考える識者が出てきた。イギリスのオーエン(神経科医・政治家)は、「傲慢症候群」という言葉を使い、トップがこの病気にかかると組織は亡びると指摘して話題になった。

「傲慢症候群」は、組織のトップだけの問題ではない。あらゆる分野で傲慢に振る舞う人が増えてきている。亭主が出世すると自分も出世した気分になって傲慢になる奥さん。親父が偉いと自分も偉いと錯覚して傲慢になる若者。自分はお金を払っているのだからと傲慢に振る舞うお客さん…。枚挙に暇がない。

 傲慢な人間にどう対応すればいいのか? 相手にしないのが一番だが、そういう訳にもいかない。せめて、傲慢にならないように気をつけたいものである。

 さらに、「グレートマン症候群」という病気もあると聞く。2008年のノーベル経済学賞を受賞したクルーグマンは、「科学の世界では、ある分野で有名な研究者が、よく知りもしない別の専門分野で声高に意見を述べるようになることを、グレートマン症候群と呼んでいる」と指摘。この病気は、経済学・政治学等々の世界にまで広がっているという。

 例えば、経済と経営は違うのに、経済の専門家が経営に口を出す。経営者が政治家に転身する例も多い。優れた経営者が優れた政治家になれるとは限らない。異分野の知見を知ることは大事なことだが、よく知らない分野に意見を挟むことは控えめにした方がよいのだろう。

 また、「グレートマン症候群」とよく似た言葉に、「全能感」というのがある。心理学用語で、「自分が何でもできる」という感覚を意味し、特に子どもの発達段階で、しばしば見られる現象だと説明されている。しかし、全能感を持つのは子供だけではないようだ。

 今は亡き山本七平さんは、著書『帝王学』に、「社長や大学教授の中にも、奇妙な全能感を持っている人は決して少なくない」と指摘した上で、その例として信長、晩年の秀吉を挙げ、もたなかった権力者として、頼朝、初期の北条氏、徳川家康を挙げている。「傲慢症候群」「グレートマン症候群」「全能感」を戒めの言葉として、頭に刻み込んでおきたい。

 ちなみに日本には、「驕る平家は久しからず」と傲慢を戒める言葉がある。

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