根性論を排する:人間の意志力を踏まえた「いつの間にか上手くいく」方法論
結局のところ、仕事であれスポーツであれ、何かを極めるには大量の時間と労力を投入する必要だ。しかしこれは、根性で何が何でもやりきるということとは全く別である。根性論は再現性がない。根性とは別の角度で、何かを継続したりやり切ったりする方法を考えることが重要だ。
人間の意志力を理解する
根性論の裏には、「意志力は自分の気持ち次第でコントロールできる」という考え方がある。しかし人間の意志力は「自動車のガソリンのようなもの」ではないか、ということを検証した実験がある。この研究によれば、意志力は有限であり、使い切ってしまったら自分で復元することは難しい。休んでチャージされるのを待つしかないのだ。
一方、意志力を「燃料タンク」として捉えるアナロジーは不適切であるという研究もある。意志力を有限と捉えるのではなく、感情のように動くものだと捉えた方が適切、という考えが以下の記事では示されている。この説によれば、感情をコントロールするように、意志力が湧きやすい環境を作ることが重要ということになる。
どちらの説が絶対的に正しいのかはわからない。しかしどちらの説にも共通することは、次の2点だ。
①意志力は常に十分なレベルで発揮できる性質のものではない
②意志力を十分に発揮するためには、意志力を発揮するために適切な状況を作る必要がある
①は自明だろう。仮に意志力が燃料タンクであれば、タンクのガソリンが少なければ十分な意志力を発揮できない。意志力を感情のように捉えたとしても、感情が「落ちている」時にはやはり、十分な意志力を発揮するのは難しい。
②は一見、2つの説で考え方が異なるようでいて、見方を変えると共通する部分がある。意志力を燃料タンクとして捉えれば、意志力を十分に発揮できるのはタンクにガソリンがたっぷり入っているときだ。つまり意志力を発揮したいとしたら、燃料タンクが満了に近い状況を作ればいい。意志力が感情のように揺れ動くとしたら、感情が「上がる」、もしくは感情が「落ちない」ような条件を特定し、それを自分に与えればよい。こう考えると、どちらの説も「適切な状況設定」という点では共通している。
意志力の性質を踏まえた方法論
意志力を「増やす(上げる)」方法と、意志力を「減らさない(落とさない)」方法の2つがあるが、今回は後者の「減らさない(落とさない)」方法を3つ紹介する。
なぜ「増やす(上げる)」方法には触れないかというと、それは「休息をとる」ことだったり、「自分にご褒美をあげる」ことだったりするのだが、これは人によって「何が休息になるのか」「何がご褒美になるのか」が変わるからだ。一方で、「減らさない(落とさない)」方法はより普遍的に語ることができると考えている。
①習慣化
まずはこれである。行動を習慣化してしまうと、その行動を取るために意志力をほとんど用いらなくてよい、という状況が作れる。習慣化が大事と言われるのは、習慣そのものが大事なのではなく、意志力を用いらずとも本来は意志力がを要する行動を取り続けることができるからなのである。
②レバレッジが効くことに注力する
レバレッジとは「てこの原理」の「てこ」のことである。つまり、少ない労力で大きなものを動かせる力のことを指す。レバレッジの効くことに注力すると、意志力を効率よく使える。同じ意志力を使っても、他のことをするよりもより高い効果が得られるからだ。
レバレッジの効くことの代表例は、「習慣作り」である。①で記載した通り、習慣化は意志力を「減らさない(落とさない)」方法の代表例である。しかし、習慣を作るまでが非常に大変だ。そこには大きな意志力を要する。しかし一度習慣化してしまえば、その後の人生でその習慣の配当を受け続けることができる。これこそ「レバレッジ」である。
③障害物を取り除くことに注力する
全体のプロセスの中で、いくつかのポイントだけが多大な意志力を要するような構造になっていることが良くある。そのようなポイントを「障害物」と呼ぶとしたら、それを取り除くことに注力してしまうのである。
障害物を乗り越えることに要する意志力よりも、障害物を除外することに要する意志力の方が少ないことはよくある。仕事でも、多大なタスクをこなしていくよりも、そもそもやるべきタスクを減らすことに注力してから取り掛かった方が、結果としてトータルの仕事量が減ることが多い。